日本自動車・家電、中国市場で「辺縁化」の危機

2025/12/5 12:00

11月17日、東京株式市場で資生堂株が一時11%超の急落を演じたのを皮切りに、日本企業の株価が軋みを上げ始めた。きっかけは高市早苗首相の台湾に関する発言だ。中国側がこれを「挑発的」と受け止め、ネット上では「不買運動」の呼びかけが瞬く間に広がった。過去の尖閣諸島(中国名「釣魚島」)をめぐる衝突(2012年)や韓国との歴史問題(2019年)で経験した「政治リスク→消費者感情悪化→売上急減」というパターンが、再び繰り返されようとしている。

自動車:すでに縮小傾向にあった市場が致命傷を受ける可能性

 中国自動車工業協会(CAAM)と乗聯会(CPCA)のデータが示す現実は厳しい。2024年の日系3社(トヨタ・本田・日産)の中国新車販売は合計3324万台にとどまり、前年比15・8%減。日系シェアは2023年の14・4%から11・2%へと3・2ポイントも低下した。

特に顕著なのは以下の数字だ。

 トヨタ:177万台(減6・9%) 

 本田:85万台(減30・9%)←2014年以来の最低水準 

 日産:69万台(減12・2%)←2008年以来の最低水準

 輸入車に限れば、さらに惨憺たる状況にある。レクサスは依然として日本からの輸入車でトップだが、2020年の23・5万台から2024年には18万台(推定)へと4年間で23%減。2025年1~9月も前年比+4%と微増に留まり、かつての勢いは完全に失われている。英菲尼迪に至っては月間上險台数が100台前後と、ほぼ「存在感ゼロ」の状態だ。

 北方工業大学自動車産業創新研究中心の紀雪洪教授は「第一財経」の取材に対し、次のように警告している。

 「もし中日政治関係がさらに悪化すれば、日本車企業の対中輸出業務と、中国国内での合弁会社の現地販売が真っ先に打撃を受ける。すでに競争力が低下している日系ブランドのシェアはさらに縮小し、電動化・知能化分野での中国パートナーとの技術協力も停滞する恐れがある」

 実際、日系メーカーがEV開発で中国CATLやBYD系のバッテリー、中国人エンジニアに依存している構図は周知の事実だ。政治的しこりが残れば、共同開発プロジェクトの見直しや人材流出が現実的なリスクとなる。

 家電:すでに「過去の遺物」になりつつある

 かつて「白物家電の王国」として君臨した日本ブランドも、中国市場ではほぼ消滅している。

 「産業在線」のアナリスト王娟氏によれば、2024年の日本から中国への白物家電輸出は年間わずか5万台程度(冷蔵庫3万台、洗衣機2万台、空調は数百台のみ)。金額ベースでも2022年の10億ドルから2024年には7億ドルへと3年連続で減少している。

 日本企業(中国)研究院の陳言執行院長はこう指摘する。

 「今や中国が輸入しているのは半導体材料・製造装置・化学材料が中心で、家電はほぼゼロ。中国企業が日本ブランドを買収し、日本国内市場ですらシェアを奪っている。家電分野での巻き返しは事実上不可能だ」

消費財・観光:最も即効性のある打撃

 政治的緊張が消費者感情に直結しやすい分野は、化粧品・スポーツ用品・酒類・観光である。

 資生堂:17日株価11%安 

 アシックス:同4%超安(中国売上高約50億元、成長率30%と絶好調だっただけに痛手) 

 日本威士忌:2025年1~8月輸入額2435万ドル(前年比+42%)と好調だったが、不買対象になりやすい 

 清酒:中国大陸向け輸出額116億円(10年間で17倍)と急拡大していたが、風向きが変われば一気にしぼむ

 そして最大の懸念は観光だ。

 2024年、中国大陸からの訪日客は698万人(前年比+187%)に達し、2025年は1000万人超が確実視されていた。彼らの消費額は1・73兆円で全体の21%を占め、ダントツの1位だった。野村総合研究所の木内登英氏は「中国客が大幅に減少した場合、GDP押し下げ効果は0・36%、経済損失は2・2兆円に達する」と試算している。

 すでに旅行会社には「日本ツアーのキャンセル・変更」の問い合わせが殺到し始めている。2026年の春節(旧正月)需要が壊滅すれば、ホテル・小売・交通機関への影響は計り知れない。

双方向依存の「非対称性」

 中国企業も日本市場に進出しているではないか──という反論はある。しかし依存度には明らかな非対称性がある。

 日本企業:中国市場が売上高の20~40%を占める企業がゴロゴロしている(トヨタ、本田、資生堂、パナソニックなど) 

 中国企業:日本市場は全体の数%程度にすぎない

 つまり、中国側が「日本製品を買わなくても生活に支障がない」のに対し、日本側は「中国市場がなくなると業績が大幅に悪化する」構造なのだ。

歴史は繰り返す。2012年の尖閣諸島国有化の際、日系車販売は一時70%も急落し、トヨタは中国工場を一時閉鎖に追い込まれた。あのときのトラウマが、中国消費者の記憶にまだ残っている。

 高市首相が発言を撤回・修正しない限り、2025年末から2026年にかけて、日本企業は以下のシナリオに直面するだろう。

 一、自動車・家電の中国市場シェアが一段と縮小 

 二、観光客激減によるインバウンド消費の壊滅 

 三、化粧品・酒類・スポーツ用品など消費者向けブランドの不買運動拡大 

 四、EV・スマート化分野での中国との技術協力停滞

 政治と経済は切り離せない──これは中国が繰り返し教えてくれる、冷酷な現実である。日本企業がどれだけ「中国依存」を減らせるか、それが今後10年の最大の経営課題となるのは間違いない。

(中国経済新聞)