格力電器のCEOである董明珠の「海帰族にスパイがいる」発言が波紋を呼ぶ

2025/04/26 19:28

4月22日、中国の大手家電メーカー、格力電器の董事長である董明珠氏が、社内会議での発言が大きな議論を巻き起こした。彼女は「海帰族(海外留学経験者)にはスパイがいる」と述べ、格力電器では海帰族を一切採用しない方針を強調した。この発言は、中国国内のメディアやネット上で瞬く間に広がり、賛否両論を巻き起こしている。

問題の発言は、格力電器の臨時株主総会で飛び出した。この会議では、投資家から「管理職の若返りをどのように進めるのか」という質問が寄せられた。董明珠氏はこれに対し、格力電器は人材育成を重視しており、年齢や経歴ではなく、若い思考、イノベーション能力、責任感、挑戦精神を持つ人材を重視すると答えた。ここまでは、企業のリーダーとしてごく一般的な見解だ。

しかし、彼女はその後に驚くべき発言をした。「我々は決して海帰族を採用しない。なぜなら、海帰族の中にはスパイがいるからだ。誰がスパイで誰でないか分からない以上、保守的に国内の大学で自社の人材を育成するしかない」と。この言葉は、まるで海外留学経験者全体を「潜在的なスパイ」とみなすかのようなニュアンスを含んでおり、即座に物議を醸した。

董明珠氏の「海帰族にスパイがいる」という発言は、いくつかの点で問題視されている。まず、この発言には具体的な根拠やデータが示されていない。確かに、国際的な企業間競争や技術流出のリスクは存在するが、海外留学経験者全体をスパイと決めつけるのは、あまりにも乱暴な一般化だ。中国では、改革開放以降、約800万人が海外留学し、そのうち600万人以上が帰国している(2022年までのデータ)。この膨大な数の帰国者を一括りに「スパイの可能性がある」とレッテルを貼ることは、事実に基づかない偏見と言わざるを得ない。

さらに、この発言は格力電器自身の歴史とも矛盾している。格力電器は1990年代に日本企業の大金(ダイキン)から技術導入を行い、2000年代にはブラジルやアメリカに生産拠点を設けるなど、国際的な技術交流や海外人材の力を借りて成長してきた企業だ。2016年には、ドイツのボッシュと共同で精密模具の研究開発センターを設立し、国際的な研究チームの貢献により技術革新を達成している。こうした事実を振り返ると、「海帰族を排除する」という方針は、格力電器のグローバル化戦略と相反するものではないのか。ネット上では、皮肉交じりに「それなら、まず東芝や大金に『スパイ防止費』を払うべきでは?」といった声も上がっている。

董明珠氏の発言は、中国のソーシャルメディアやニュースメディアで瞬く間に拡散した。反応は大きく二つに分かれている。一方では、彼女の発言を支持する声がある。特に、技術の自主開発や国家安全保障を重視する層からは、「企業がリスクを回避するのは当然」「海帰族には確かにスパイの可能性がある」という意見が聞かれる。格力電器は空調技術などで独自の特許を持ち、国際市場での競争が激化する中、技術流出への警戒心は理解できるというわけだ。

しかし、反対の声はさらに大きい。多くのメディアや専門家は、董明珠氏の発言を「時代錯誤的」「偏見に満ちたもの」と批判している。たとえば、官製メディア『新京報』は、「董明珠の『スパイ発言』は、彼女の時代遅れな人材観を暴露した。これは根深い偏見に由来するもので、スター企業のリーダーにふさわしい広い視野や器量とは相いれない」とコメント。また、ネット上では海帰族の若者たちが「私たちは技術や知識を持って祖国に貢献するために帰国したのに、なぜスパイ扱いされるのか」と憤りを表明している。ある留学生はSNSで、「スタンフォードで学んだ知識を中国の電池技術に活かしたかったのに、こんなレッテルを貼られて失望した」とつづった。

董明珠氏の発言は、単なる企業の方針を超えて、中国政府の政策との整合性にも疑問を投げかけている。中国は近年、「人材強国戦略」を掲げ、海外からの優秀な人材を積極的に受け入れる政策を推進してきた。2024年の『中国海帰就職調査報告』によると、帰国求職者の数は前年比20%増加し、特にAIや新エネルギー分野では海帰族の平均月給が国内卒業生を28%上回るなど、企業にとって不可欠な存在となっている。政府は「天下の英才を集めてこれを用いる」というスローガンのもと、各地で海帰族向けの優遇政策や専用の採用フェアを開催している。

こうした背景を考えると、董明珠氏の「海帰族排除」発言は、国の開放的でグローバルな人材戦略と明らかに逆行している。北京や広東省などでは、かつて海帰族を積極的に公務員として採用していたが、近年は地政学的な緊張から一部で制限が加わっているとはいえ、企業レベルで「一刀両断」に海帰族を排除する姿勢は異例だ。専門家からは、「グローバルな技術協力がますます重要になる時代に、こうした排他的な発想は企業の成長を阻害する」「国家の『引才引智(人材と知恵の導入)』の方針に反する」との懸念が上がっている。

董明珠氏は、格力電器を世界的な家電メーカーに育て上げた「鉄の女」として知られ、その強烈なリーダーシップと率直な物言いで多くの支持を集めてきた。彼女は全国人民代表大会の代表を務めた経験もあり、公共の場での発言は大きな影響力を持つ。しかし、今回の発言は、彼女の「率直さ」が裏目に出た形だ。

過去にも、彼女は「自動車産業は粗雑だ」「拾ったスマホを返さない人は5年刑務所に」など、物議を醸す発言を繰り返してきたが、今回は特に社会的影響が大きい。

(中国経済新聞)