テンセント、エヌビディアから数百億円分の半導体を調達 AIの本格利用を後押し

2025/03/16 08:30

大規模言語モデル(LLM)の利用を急速に拡大しているテンセントは先ごろ、エヌビディアに対し半導体「H20」を発注した。エヌビディアは納期を間に合わせるために品不足に陥っているという。エヌビディアに近い関係者によると、発注金額は数十億元(約数百億円)にのぼる。これについてテンセントは、現時点でコメントしていない。

H20は、エヌビディアが2023年末に中国市場向けに設計したAI用半導体であり、中国で現在、合法的な手段で調達が可能なLLMトレーニング用のエヌビディア製半導体のうち最先端のものである。アメリカは中国に対して強硬な輸出規制を敷いていることから、H20は性能面で劣り、コスパが低い。また中国は国産の半導体利用を奨励していることから、テクノロジー企業の多くは調達先を国内にシフトしている。テンセントの社員によると、2024年の初めにこれが要因でH20の調達量拡大を見送っており、今年になって改めて発注したという。

エヌビディアのH20は、DeepSeekの登場で「成長株」となっている。テンセントはDeepSeek について、2025年2月15日にWechatへ導入したのを皮切りに、QQ音楽、QQブラウザ、LLMのApp「元宝」、Tencent Docs、テンセントマップなど自社のアプリへ相次ぎ導入を果たしている。

ここへ来てテンセントが演算への投資を拡大していることについて業界関係者は、一段と利用しやすくするためと見ている。テンセントのアプリはユーザー数が膨大であるが、フリーズや「サーバービジー」が頻繁に生じるとユーザーを失ってしまう。アリクラウドの社員によると、テンセントが短期間で大量にH20を調達するのはWechatへのDeepSeek導入に対応するためとのことである。

テンセントが「元宝」を発表したのは2024年5月である。すでに同じようなAppがかなり出ていて、バイトダンスの「豆包」や「月之暗面」(Moonshot AI)の「Kimi」がシェア奪取へ投資をしていた中、テンセントは元宝にさほど力を入れていなかった。

テンセントの社員によると、DeepSeekが登場するまではLLMへの取り組みを明確化しておらず、多くの実務部門がそれぞれLLMの開発スタッフを抱えていて、それぞれがAIで力をつけることを当面の重点としていた。DeepSeekの登場で意思決定が今一歩進み、「本格化」への可能性を見出したのである。

この「本格化」はテンセントの優先取り組み内容であり、AIで価値を一段と膨らませる上での大きな尺度でもある。しかし現時点で、AI利用について明確な方針がない。上記の社員によると、「テンセントは今後すべてのアプリをAIが統括すると見ていながら新たな利用が見出せていないので、ひとまず既存のアプリを運営させてユーザーを奪おうとしている」という。今のテンセントにとって、AIを新しく利用するより大切なことだというのである。

世界のスマホアプリ広告情報の分析App「Growing」によると、広告費支出について、テンセントの元宝は2月27日までの27日間で計2.81億元であった。なお豆包は2025年2月に0.28億元を、Kimiは同じく0.44億元を費やしている。

テンセントの広告効果は顕著であり、元宝の1日のアクティブユーザー数(DAU)について、QuestMobileによると2月9日はDeepSeekや豆包の端数程度である数十万人であったが、2月22日にはダウンロード数が初めて豆包を超えた。アップルのAPP Storeによると、3月3日、中華圏における無料Appダウンロードランキングで元宝がDeepSeekを抜きトップに立った。

ただし競争も激しく、その直後に元宝のダウンロード数が豆包とDeepSeekに再逆転されて3位に転落した。QuestMobileのデータによると、3月4日時点のDAUはDeepSeekが4885万人、豆包が2947万人、元宝が797万人、Kimiが373万人、文小言が162万人、通義が48万人となっている。

テンセントは、今年2月からLLMへの取り組みが活発になっている。2月15日から3月1日までの2週間で、DeepSeek-R1の統合、混元(Hunyuan)の新たなモデル「T1」の導入、Wechat検索の統合、画像の解析、複数のアプリの共通展開などを行い、テクノロジー大手の中で今年はかなり激しい動きを見せている。

中国のLLM業界は、2022年にOpenAIが競争を挑んでからの2年間で急激な変化を遂げた。バイドゥが大手の中で先駆けてLLMアプリを発表した後、複数のスタートアップ企業が出現した。そこへバイトダンスが大金をかけて打ち出した豆包は、ダウンロード数が億単位となり、一方でアリババはLLMのシステムやエコロジーの整備を強調している。2025年春節にDeepSeekが世界にとどろいたことで、LLMを巡る競争は新たなステップに突入している。

(中国経済新聞)