2025年の中国全人代では、「巻き込み式」競争の排除にスポットが当たった。
3月5日、李強総理は政府活動報告で、「市場の全国一本化を本格的に推進し、地方の保護や市場の分割を排除し、市場の参入や撤退、要因の割り当てなど経済循環の妨げとなるものをとり除き、『巻き込み式』競争を全面的に廃絶する」と述べた。また、質の高い発展という最優先課題を捉え、質で勝利し規模で効果を発揮するということを統一させ、質の有効的な向上と量の合理的な成長を実現するとも訴えた。
この日に審議された「2025年国民経済・社会発展計画草案の報告」でも同じく、「一部の業界で『巻き込み式』競争が発生し、利益が圧迫され生産や経営が困難になっている企業が多く、諸費用の未納問題が際立っている」との表現があった。
また、この日午後に江蘇省代表団の審議に参加した習近平総書記も、「地方の保護や市場の分割、『巻き込み式』競争を排除しなくてはいけない」と指摘した。
「巻き込み式」競争の廃絶、これは2025年の中国社会で対応すべき大きな課題となっている。
中国はこのところ「新三様」(新エネルギー車、リチウム電池、太陽電池産品)を代表とする新エネルギーや低炭素産業が脚光を浴びており、生産規模や国内の市場規模、輸出が世界トップになっている。その一方で、同じく「巻き込み式」競争の悪化など問題も抱えている。
「新三様」産業は急速な成長を遂げてはいるが、各社の「巻き込み式」競争が深刻で、ひたすら安値を求めて「増産減益」が鮮明になり、利益が大幅に低下したり赤字転落したりする業界も出ている。
新エネルギー車産業について、急成長する市場へ企業が詰めかけて参入し、流通車種の数が約150にのぼり、シェア奪取に向けてどのメーカーも値引きに走っている。中国自動車流通協会の乗用車市場情報連席会によると、新エネルギー車の購入平均価格は2023年3月の19.1万元から2024年3月には17.23万元となり、率にして9.8%下落した。また2024年1月—8月自動車業界の利益率は、川下工業の平均である6.2%を下回る4.7%で、新興メーカーのほとんどは赤字となり倒産も相次いでいる。
価格だけでなく、自動運転や海外市場など多方面で争いを演じる自動車メーカーが軒並み疲弊しており、不振の影響は川上側のリチウム電池などへも波及している。中国自動車戦略・政策研究センターのチーフエンジニアである呉松泉氏によると、国内で新エネルギー車を生産している60社以上のうち利益が出ているのはテスラ、BYD、理想汽車、賽力斯(SERES)の4社のみで、業界全体で赤字となっている。
車載電池産業については、炭酸リチウムなどの原材料や電池セルの価格が大幅にダウンして産業チェーンの主な上場会社が売上高を落とし、純利益が急降下して赤字に至るケースもでている。太陽電池産業については、2024年上半期の平均価格を見ると、ポリシリコンが約40%、シリコンチップが35.17%、電池が36.17%、モジュールが10.5%それぞれ値下がりし、決算発表済みの62社のうち2/3が利益ダウン、30社が赤字で、特にシリコンのインゴットやチップ、電池セル、モジュールなど基幹部分で業績が急降下している。
太陽電池について、資本や企業や政府が高く評価して続々と「投機的」に参入し、2022—2023年の新規生産能力はそれまでの20年間分の2—3倍となり、供給側でそれぞれ能力分をテラワット級の1000GWに押し上げた。太陽電池のモジュールは市場価格が2023年後半から下落の一途をたどり、業界平均のコストラインを割り込み、ほとんどの事業者が「出荷すると赤字、出荷しなければ死も同然」という状態になっている。
このように各業界が「巻き込み競争」を演じている理由として、地方政府の「巻き込み式」企業誘致や、知的財産権の未対応、サプライチェーンの極度な締め付けなど、様々な問題が絡んでいるとの見方もある。
李強総理は政府活動報告で、「市場の全国一本化を妨げる規定ややり方を排除し、公平な競争を審査する条例を実行し、地方の企業誘致をルール化する策を打ち出す」と述べた。
鉄鋼について、計画原案では粗鋼の生産調整を継続する予定とされている。中国は2021年から生産調整を始めており、今回初めて計画原案でも示されたことになる。
2024年は従来型である鋼の業界に下押し圧力が加わって、原料や燃料の価格が上昇傾向となり、鉄鋼業界は「発展のため減量し在庫を改善」との段階に入った。中国鉄鋼工業協会は年内に、主要企業の利益総額が前年比50.3%減の429億元、販売利益率が同0.63ポイント減の0.71%にとどまったと報告している。
需給バランスが失われた中、計画原案では鉄鋼産業のスリム化やリストラの実行を訴えている。中国の鉄鋼業界はかねてから各社分散状態が続いている。「中国冶金報社」の2025年1月のレポートによると、2023年の主な鉄鋼メーカーの粗鋼生産量について、上位4社(CR4)の合計が全体の26.4%、上位10社(CR10)の合計は51.16%であった。CR4についてはアメリカの79%、日本の80%、EUの73%よりずっと低い。
石油化学について、計画原案では「石油を減、化学を増、質を向上」を維持し、産業をファインケミカルへ延伸することとされている。また先進繊維素材の用途を開拓し、航空宇宙や軌道交通などで高性能の繊維や複合材料の技術革新や利用検証を進めること、としている。
石油化学産業は、「低級品過剰、高級品不足」という構造的問題を抱え、大規模な改革を迫られている。2024年の石油化学業界の利益総額は前年比8.8%減の7897.1億元で、売上利益率は同0.6ポイント減の4.85%と過去最低レベルとなってしまった。
中国石油化学工業連合会の傅向昇副会長は2月20日の記者発表会で、「石油化学産業は大規模な改革をしないと低迷を抜け出せず、またこの改革の痛みを経験しないと『巻き込み』競争という状態にはまり続けるところまで来ている」と述べた。法により老朽化設備を撤去して従来産業の技術改良や構造改革を急ぎ、製品を高級化、差別化、ファイン化し、同時に国際化も展開しなくてはならないという。
ならば、この「巻き込み式」競争問題にどう対処すべきか。
中国社会科学院中国式現代化研究院の李暁華氏は、「国内の生産過剰問題を和らげるべく海外進出を支援すべき」と見ている。
李氏は、「新三様」企業はすでに世界で戦える力を備えていると見ており、サプライチェーンをグローバル化するにあたり、各国の有利な生産要因を十分に活用すれば現地の市場にうまく応えられるほか、貿易の障壁をかわすことにもつながるという。こうしたプロセスで中国の原材料や部品、生産設備などサプライチェーン関連品の輸出も期待できる。「新三様」企業に対し、ハンガリーやメキシコなどで車載電池や新エネルギー車の組み立て工場を建設するなど、生産に有利な要素があり市場ニーズも十分見込める国や地域での工場建設を支援すべきという。ただし海外工場の建設にあたり、新製品の開発や工程の刷新など要となる活動は国内で行い、中国の産業技術の優位性やサプライチェーンの支配力を保たなくてはいけない、とのことである。
(中国経済新聞)