DeepSeekによりトレーニングの方法が安価で効率的なとなり、アルゴリズム需要が減っていることで、「AI革命により計算やエネルギーへの需要がけた外れに増える」との仮説が崩れている。
DeepSeekの人気上昇を受け、このところ欧米でAIコンセプト株が大きく下落しており、中でも半導体メーカーや、AIやデータセンターに電力を供給するエネルギー会社が不振である。春節(旧暦正月)の前日、エネルギー供給社のConstellation Energy は21%、電力企業のVistraは28%も株価を落としている。
国際税務・投資センターでエネルギー・成長・安全問題を担当するウェスレー・アレクサンダー・ヒル代表補佐(Wesley Alexander Hill)は先ごろ、雑誌「フォーブス」で、「DeepSeekはエネルギー分野を根本的に覆した」という署名入り文章を発表した。エネルギー政策をベースにした「AIにより需要が増え続ける」という世界各国の基本的な仮設はもはや過去の物になったという。
金融サービス会社ジェフリーズ(Jefferies)のアナリストも、DeepSeekの台頭を受け、レポートの中で「AIの普及とともにアメリカで電力需要が大幅に増える」との予測を疑問視している。
これまでは、「AIの規模を拡大する方法は、多くの半導体を使い、より大規模なデータセンターを設置するといった大量の投資で、エネルギーの消費をひたすら増やすことだ」と考えられていた。ローレンス・バークレー国立研究所の2024年のレポートによると、アメリカでは電力の全消費量におけるデータセンターが占める割合は、2023年は約4.4%で、2028年には2~4倍となって12%に達するとしている。また電力研究所はこの割合について、2030年には現在の2倍余りの9%となると予測しており、この10年間で増える量はカリフォルニア州全体の電力需要に相当するという。
こうした背景を受け、エネルギー大手がかなりの食指を動かしている。エクソンモービルとシボレーは2024年12月に、天然ガス発電や二酸化炭素の回収・貯留技術によりAIのデータセンターへ電力を供給するなど、電力市場への参入を前向きに検討中と表明した。エクソンモービルはデータセンター向けに1.5ギガワット(GW)の天然ガス発電所を建設すると発表している。
ところが、DeepSeekが安価なトレーニングモデルを打ち出したことで、業界内では大規模なAIアルゴリズムへの投資に対し疑問が生じており、これを受けエネルギー需要の見通しも随分と後退している。
またDeepSeekの出現により、エネルギー企業に新たなアイデアが発生している。中国では最近、中国石油(CNPC)、中国石化(Sinopec)、南方電網などエネルギー大手が相次ぎ、DeepSeekのモデルを事業に導入すると発表した。CNPC昆侖はDeepSeekの大規模言語モデル(LLM)を社内で配備し、エネルギーや化学の分野でのQ&Aや推論の場面で活用しているという。またSinopec も、DeepSeekを長城のLLMシステムに統合し、社内でグループごとに使用を広めているほか、DeepSeekの利用で地震データの処理や石油資源の開発、化学製品の開発、顧客対応などの専門モデルの開発効率が引き上がり、石油化学業界でスマート化やデジタル化への改革が進んでいると称している。
(中国経済新聞)