2024 年 11 月に開催された広州モーターショーで、日本勢は強みを持つハイブリッド車(HV)を強く押し出さず、「NOA(Navigate on Autopilot)・自動運転のためのナビゲーション機能」を搭載する先進運転支援システム(ADAS)やスマートコックピットを備える新型電気自動車(EV)をアピールした。EV シフトが進行する中国では、ソフトウエア定義自動車(SDV)の増加に伴い、人工知能(AI)や自動運転技術を軸とする知能化の潮流も加速している。EV のデザイン、動力源、航続距離だけではなく、ADAS 機能も車選びの重要な要素になっている。こうした中、日本勢は中国企業との協業に踏み出し、中国で高まる知能化ニーズを取り込もうとする姿勢を示した。急速に知能化シフトが起きている中国市場で、自動運転開発を急ぐ中国企業の動向や日系 EV の今後の行方は目が離せない。
NOA の開発競争
自動運転の技術には、一部の機能だけを自動にする「レベル 1」から、ドライバー不要の完全自動運転の「レベル 5」まである。現在、中国では消費者向け車両が「レベル 3」のシステムを作動させて一般道路を走ることができないため、「レベル 2」に相当するADAS を搭載する車両が多い。その特徴はカメラやレーダー、センサーなどのハードウェアを用いて、駐車や車線維持、障害物の回避などでドライバーを支援する高度な仕組みにある。
テスラは ADAS「AutoPliot」や、カメラだけを使った高度な運転支援システム「フルセルフドライビング(FSD)」を、OTA(Over the Air)アップデートし、随時最新の機能を付加することにより、自社の自動運転戦略を推進している。テスラと同様な技術路線を採用している中国の新興勢は「NOA」と呼ばれるシステムを投入しており、一定条件で運転者がペダルから足を離し、手放しでの運転を実現した。
小鵬汽車は、2019 年に XPILOT を導入し、自社開発したオペレーティングシステム「Xmart OS 4.2.0」を用いて、スマートドライビング、コックピットの乗車体験など、OTAアップデートを開始した。蔚来汽車(NIO)は2020年にNOP (Navigate on Pilot)を打ち出し、高速道路と都市部の高架式道路内で、車両が最適な車道を選択・走行する機能を提供しはじめ、理想汽車(Li Auto)も類似システムを投入した。上記 3 社の高速道路での運転支援は「レベル2+」の自動運転技術に相当する。
しかし、2024年からはNOAシステムのトレンドが 変わってきている。ファーウェイは2024年2月に新 たなNOA機能を導入し、高精度な地図に依存しなくて も運転できるようになった。知覚能力を活用し、複数の センサーを用いた障害物検知システムを通じ、道路や信 号などの識別や車両の制御を行い、中国の全ての都市で 同システムを利用できるという。中国新興ブランドのセ レス「AITO」にはファーウェイ製「ADS 2.0」や LiDAR を搭載し、衝突回避システムやスマートパー キングなどの機能を含むスマート運転体験を実現した。
小鵬汽車は、2019 年に XPILOT を導入し、自社開発したオペレーティングシステム「Xmart OS 4.2.0」を用いて、スマートドライビング、コックピットの乗車体験など、OTA
ファーウェイのNOAはシステム稼働時にもドライバーの運転が必要となるADAS機能 にとどまるものの、中国では自動運転「レベル2++」と呼ばれている。車両は、自動で の車線変更や加減速などが可能となり、OTA アップデートによって路面状況が複雑な一 般道路でもNOAを利用できるようになる。こうした機能の進化により、地図更新などの 手間が省け、自動運転が迅速に普及する可能性が見込まれる。 小鵬汽車のNOAシステム(筆者撮影) NIO のコックピットシステム(筆者撮影) 小鵬汽車は2024年2月にXNGP(Xpeng Navigation Guided Pilot)を導入し、高精度な 地図を必要とせず、中国全都市で車線変更やナビゲーションなどを実現した。NIOが2024 年4月に導入した「NOP+」は、当社の「NT 2.0」プラットフォーム上に構築されたADAS 機能であり、小鵬汽車のXNGPに匹敵する精度と機能を持つ。新興勢と比べて、NOA機 能で出遅れたBYDは2024年に2兆円を投資し、自動運転技術の開発に注力し始めた。 自社の中高級車ブランドに特定都市向けシステムを投入し、2025 年には全国版システム の導入を目指す。
日本車の知能化シフト 2024 年末現在、中国では20以上の自動車ブランドが、消費者の関心が高いNOAサー ビスを導入した。ADASシステムも車間距離の測定や車線変更などの「レベル2」から、 高速道路での運転支援「レベル2+」、全国の一般道路での自律走行を可能にする「レベル 2++」と進化している。新エネルギー車(乗用車)販売台数に占める「レベル2」以上の 車両の割合が、2020年の15%から2024年には約60%へと大きく上昇した。
エンジン車ビジネスを中心とする日系各社とも、中国の合弁パートナーや大手テック企業との協業を通じて、段階的に EV 戦略を進めることで劣位挽回を目指している。2025 年初めには、トヨタが EV「bZ3C」(一汽トヨタ生産)、「bZ3X」(広汽トヨタ生産)を投入し、中国の自動運転ソフトウエア企業であるモメンタ(Momenta)と共同開発した ADAS「Toyota Pilot」を搭載する。日産はモメンタの ADAS を搭載する新型セダン EV「N7」(東風日産生産)を投入する。両社の ADAS は市街地向け「NOA」に近い「レベル 2++」機能を備える。ホンダが 25 年に投入する EV シリーズ「燁」は、「Honda SENSING 360+」を採用する。ただ、トヨタや日産の新型 EV と異なり、ホンダの ADASは、高速道路でのハンズオフ運転(「レベル 2+」機能)が可能となるものの、市街地向け NOA 機能には対応できない。
業界競争の未来図が見通せない中、新たな可能性を見つけ、リスクをとって挑戦する中国企業が増えている。こうした企業は、AI・コネクテッド技術による新たな乗車体験を提供し、日系を含むグローバル自動車メーカーと勝負することを図って挑戦している。特に、その中でも一部の中国新興勢・テック企業が、認知から操作まで AI で構成するエンド・ツー・エンド(E2E)機能を標準搭載した EV を投入し、自動運転技術に特化しようとしている。中国製スマートカーの競争力が、無視できないレベルに到達し、従来型の車両開発戦略では立ちいかない昨今、EV で後手に回った日本勢は中国のサプライチェーンとエコシステムを活用し、市場のニーズを素早くとらえる開発体制を構築する一方、中国勢に遜色ないソフトウエア技術や機能を持続的に開発・投入する時代を迎えつつあるのだ。
(文:湯 進)
***********************
みずほ銀行 ビジネスソリューション部 上席主任研究員上海工程技術大学客員教授、中央大学兼任教員
みずほ銀行で自動車・エレクトロニクス産業を中心とした中国産業経済についての調査業務を経て、日中の自動車業界の知見を生かした両国での事業を支援する。著書「中国の CASE 革命~2035 年のモビリティ未来図」(日本経済新聞出版)など多数。