6月26日、日本前首相の岸田文雄は東京で開催された外国特派員協会の記者会見に出席し、日本外交について自身の見解を述べた。
会見で、フェニックステレビの記者が中日関係について質問した。岸田氏はこれに対し、真剣で重みのある回答を行った。
これは昨年10月に高市早苗氏が台湾に関する誤った発言を行い、中日関係が急激に緊張して以来、日本の重鎮である前首相が、中日関係について初めて公の場で詳しく言及し、対立を和解させるための道筋を提示したものだ。
注目すべきは、岸田前首相が「競争」や「対抗」には触れず、ひたすら一つの言葉を繰り返した点である――それは「対話」だ。
以下は、岸田氏の中日関係に関する発言全文である。
「私は日本と中国との関係隣国でもあり、そして例えば日本にとって最大の貿易相手国は中国です。中国にとって第二の貿易相手国は日本です。等々、経済を始め、様々な関係においてこの2つの国は大変重要な関係を作っていると思っています。だからこそ対話が重要だと言うことで、私も習近平国家主席とは2度APECの機会等で会談を行いました。また李強首相ともアセアンや日中韓サミット等で会談をするなど対話を続けてきました。この対話が大事だと言う事は強く感じています。対話を通じて日本と中国の関係を安定させると言う事は、両国の国益だけではなくして、国際社会や地域の平和安定にも大きな影響を及ぼすことになると思っています。
しかしその中にあって今おっしゃるように日中関係の対話を担う人物がどんどんと少なくなっている。そういう現実があります。また対話自体が厳しい状況の中でなかなか行われない。こういった状況になっている。この事は私も残念に思います。
大変厳しい状況にあるのはご指摘の通りではありますが、だからこそこの対話の努力、決して国のレベルだけではなくして、経済やあるいは市民レベル、スポーツや文化など、あらゆるこの分野において両国の国民が対話を続ける努力をしていくことが大事だと思います。
その国と国との間の対話と言うことについても、ぜひそれぞれの国の国益のみならず、国際社会の平和と安定のためにも対話をするべきだと言うことを訴え続ける事は大事だと思います。
(高市)政権も対話が重要である、対話のドアはオープンである、ということは言い続けていると承知しています。ぜひこれが結果につながることを期待したいと思っています。」

岸田氏は4年7ヶ月もの長きにわたり外務大臣を務め、戦後日本で最も長い在任期間となった外務大臣であり、日本政界では稀有な「外交型首相」とされる。彼の発言は常に穏やかで抑制的な表現を心がけ、過激な言葉を避けるのが特徴だ。しかし、こうした抑制的な語り口の中で、今回の中日関係に関する発言は、言葉の裏に込められた意味を丁寧に読み解く価値がある。
第一の意味:経済的利益こそが中日関係の安定の重石である。 岸田氏は発言の冒頭で、中日関係の基本構造を明確に指摘した――中国は日本最大の貿易相手国であり、日本は中国の第二位の貿易相手国である。これは一見当たり前の事実のように見えるが、彼の話全体の論理的出発点だ。両国間にこれほど深い経済的結びつきがあるからこそ、対話に価値があり、関係の安定化が必要となる。これはすべての人に、中日関係の本質はイデオロギーや陣営対立ではなく、実際の経済的相互依存にあることを思い出させるものだ。
第二の意味:高市政権への婉曲な批判。 岸田氏は「中日関係の対話を担う人物が少なくなってきている」「厳しい状況下で対話がますます進めにくくなっている」と述べ、「非常に残念に思う」と率直に語った。 この発言には明確な意図がある。昨年10月、高市早苗氏は国会答弁で台湾に関する発言を行い撤回を拒否し、中国側はこれを自国の主権の底线に対する挑戦とみなした。これに対し中国側が対日反撃を強化し、中日外交は低迷した。岸田氏は後任者を直接批判しなかったが、このタイミングで発言したこと自体が一つの態度表明である。「残念」「対話が進めにくくなった」という表現は、日本政界の文脈ではかなり率直な批判と言える。
第三の意味:対話は政府だけに頼るものではなく、民間力も重要。 岸田氏は、対話を進める努力は「国家レベルに限ったものではなく」、経済界、市民社会、スポーツ、文化などあらゆる分野で両国国民が継続的に対話を続けるべきだと強調した。これは現実的な意義を持つ。国家関係が膠着した時、民間交流こそが両国関係の基本的な温度を保つ最後の防波堤となるからだ。
第四の意味:高市政権への配慮と「出口」提供。 発言の最後で、岸田氏は「高市政権も対話の扉は常に開かれていると表明している」と述べ、「これらの表明が実際の成果につながることを願う」と語った。これは外交的な善意であり、高市氏を追い詰めず、余地を残した表現である。言外の意味は「道筋は示した。あとは高市政権が歩むかどうかにかかっている」ということだ。
岸田氏が首相在任中、中日関係は蜜月とは言えなかったが、少なくとも基本的な意思疎通のチャネルは維持されていた。しかし現在、その対話チャネルは狭まりつつあり、様々な出来事が重なって、すでに脆弱な相互信頼をさらに揺るがせている。
こうした中で、退任した前首相が外国記者を前に公に「対話」を呼びかけたことは、それ自体が一つのシグナルである。
岸田氏に中日関係の方向性を決める権限はない。しかし、彼はこの言葉を発する資格があり、十分な重みを持って両国に届ける力がある。彼が繰り返した「対話」という言葉は、今日の日中関係において、決して容易なことではない。だからこそ、努力する価値があるのだ。
(文:徐静波)
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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立、代表取締役社長に就任。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。
講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。
日本記者クラブ会員。
