ジョギングが日課の私にとって街のコンビニは有難い存在だ。この時期、冷房の効いた店内は夏場のオアシスで、火照った身体を冷やしてくれる清涼飲料水はまさに命の水。ただし、購入してもすぐには飲まずにしばらく脇に挟んで体温を下げ、しばらくして飲むと適温となって胃にも優しい。店内のショーケースに陳列された商品以外にも、必ず常温の商品も置かれているのがいかにも中国らしい。冷飲が身体に良くないという漢方的常識がその背景にあるからだろう。
中国で便利店と呼ばれるコンビニは、2025年末時点で全国に33・8万店舗あり、美宜佳や易捷等の大手中国ブランドを筆頭に外資系を含むトップ20で全体の60%以上にあたる20・8万店舗になるという。そのうち日本のローソン(羅森)、セブンイレブン、ファミリーマート(全家)はそれぞれ約7000店、5500店、3200店で5位、8位、12位にランキングされている。2024年度実施の顧客満足度調査では日系三社が1位から3位を独占したとされ高い人気を博している。
気になるのは日本のコンビニとの違いだ。店舗デザインは日本のそれと大差ないが、品揃えはいかにも中国風だ。とりわけ飲料は外資系ブランドに劣らず、ローカル系ブランドの商品が充実している。特に飲料水とスポーツ系ドリンクの品揃えは豊富だ。また、レジ横の店頭調理棚も実にユニークである。日本のおでんのような滷味((ルーウェイ)、茶葉卵、蒸しトウモロコシ、焼きソーセージ、中華まんや肉まんなど種類も豊富。購入時は店員によるレジ打ち以外にもセルフ形式でのスマホ決済が当たり前になっている。更に完全無人店舗やロボットスタッフが常駐する店舗もちらほら現れてきたのはいかにも時代の先端を走る上海のコンビニらしい。上海等の都市部では主な顧客層は10代から30代の自炊をしない若者や旅行者で、朝昼晩の時間帯を問わず、熱々の商品を購入して店内のイートインスペースで食事する彼らの姿は上海のコンビニでは日常の風景となっている。
ところで、中国初のコンビニをご存じだろうか。それは今から遡ること約60年前の1968年、「益新茶葉店」の店長が「為工農兵服務」を理念に夜間にも買い物や休憩ができるようにと開業した「星火日夜食品商店」である。当時、夜勤労働者や郊外から野菜の行商に来る農民の食事や休憩、地域住民のための公用電話や郵便の取次、そしてバスの定期券販売などいわゆる便民服務の役割を担っていた。まさしく街のサービスステーションだったわけだ。その活動が時の総理に賞賛されたことで「星火精神」は全国に普及し、各地に日夜商店が開業していった。黄浦区の西蔵中路で生まれたこの店は、その後、再開発や改修のために移転を繰り返したが、今でも延安東路の一画で細々と営業を続けている。

なお中国での本格的なコンビニの幕開けは今からちょうど30年前の1996年7月19日に遡る。上海コンビニ第1号のローソンが我が街、古北新区と田林東路に同時オープンしたのだ。その後、私が上海に来た1999年にはすでに1000店舗超のコンビニがあったそうだ。当時まだ生活に不慣れな私にとって馴染み深いコンビニの存在は実に有難かった。なお、ローソン開業前の1993年にも香港資本の百式便利というコンビニ店がすでに開業していたらしいが、外部要因や経営不振が重なり、1999年に撤退したという。その後も、急速な経済発展に伴い、市内のコンビニ店舗数は2004年末には5400店、2025年末時点では7500店を超えたとされる。当時、街の至る場所で異なるブランド同士、あるいは同一ブランド同士の複数のコンビニが真横、真向かいに並んだ光景を度々目にした。まさにコンビニ激戦区上海ならではの風景であった。
今月中旬には上海で世界人工智能大会が開催された。今後、益々無人化やロボット化が進み、その実装化も急速に進んでいく中国のコンビニ。だがその一方で、かつての暮らしのサポートから生まれたコンビニの原点を忘れてはなるまい。今も営業を続けるあの「星火日夜食品商店」の経営理念は「全心全意為人民服務」だという。時代と共にコンビニの形は変われど、このレガシーは継承されるに値する。これからも「便民服務」に欠かせない社会インフラとしての上海のコンビニは「便利店」である前に、常に「便民店」であってほしいものだ。
(中国経済新聞)
