天津、中国の華北に位置するこの港湾都市は、歴史的な租界の面影と現代的な高層ビルが共存する、独特な魅力を持つ場所だ。海河の流れ、狗不理包子の香り、相声(漫才)の軽快なリズム――これら全てが、天津の多面性を物語る。だが、天津の真の魅力は、その地に暮らす「天津人」の独特な性格にある。彼らは、ユーモアに富み、義理堅く、どんな場面でも前向きだ。では、「天津人」とは一体どのような人々なのか。街角での観察と文化の視点から、その特徴を紐解いてみよう。
ユーモアと話術:天津人の魂
天津人を語る際、まず浮かぶのは「ユーモア」だ。天津人は、会話の達人で、どんな話題も軽快に切り返す。南開区の市場で、店主が客と冗談を交わしながら値引き交渉をする光景は、天津の日常そのものだ。私の友人の天津人、張さんは、茶館で働く40代の男性だ。彼は、客に天津名物の麻花を勧めながら、「これ食べて、人生の甘さを感じなよ!」と笑わせる。「天津人は、話が上手じゃなきゃ生きていけない。笑いがなきゃ、つまらないよ」と彼は言う。

このユーモアは、天津の文化に根ざしている。天津は、相声(中国の漫才)の発祥地として知られ、言葉を巧みに操る芸能が根付いている。馬三立や郭徳綱といった相声の巨匠は、天津人の機知を象徴する。海河沿いの茶館で、老人が相声の名場面を真似て皆を笑わせる姿を見ると、天津人の話術のセンスが伝わってくる。ただし、このユーモアは、時に皮肉や毒舌に変わることもある。特に、理不尽なことに対して、天津人は遠慮なく突っ込む。だが、それは悪意ではなく、率直さの表れだ。
義理堅さと正直さ:信頼の基盤
天津人の性格は、義理堅さと正直さにも特徴がある。天津人は、約束を守り、裏表のない付き合いを大切にする。五大道の商店街で、店主が「お釣りは多めに返すよ、安心して」と笑う姿は、天津人の誠実さを象徴する。私の同僚の李さんは、天津で物流会社に勤める30代の女性だ。彼女は、取引先との約束を守るため、深夜まで書類を準備した。「天津人は、信用が命。一度約束したら、どんな困難でもやり遂げる」と彼女は言う。
この義理堅さは、天津の歴史に由来する。清末から近代にかけて、天津は外国租界が置かれ、国際貿易の要衝だった。異なる文化や人々が交錯する中、信頼に基づく関係が重要だった。現代の天津人も、このDNAを受け継ぐ。濱海新区の工場で、労働者が「この製品は完璧だ、俺が保証する」と胸を張る姿を見ると、天津人の正直さが感じられる。ただし、この義理堅さは、時に頑固さと紙一重だ。自分の信念を曲げない姿勢が、柔軟性を欠くように見られることもある。だが、それは彼らの信頼へのこだわりの裏返しだ。
美食へのこだわり:生活の楽しみ
天津人の性格を語る上で、食への情熱は欠かせない。天津は、狗不理包子、煎餅果子、麻花といった名物で知られる美食の街だ。朝、街角の屋台で、煎餅果子を頬張りながら新聞を読む人々の姿は、天津の日常風景だ。私の知人の王さんは、天津で小さな包子店を営む50代の男性だ。彼は、包子の皮の厚さや餡の味にこだわり、「天津の食べ物は、シンプルだけど心がある。食べて幸せにならなきゃ意味がない」と語る。

この食へのこだわりは、天津人の生活を彩る。天津人は、食を通じて家族や友人と絆を深め、人生の楽しみを見出す。週末に、親戚が集まって麻花や羊湯を囲む光景は、天津の温かさを物語る。また、天津人は、新しい味にもオープンだ。近年、若い天津人が伝統的な料理に西洋の要素を取り入れたり、SNSで「映える」メニューを開発したりしている。南開区のカフェで、煎餅果子をアレンジしたサンドイッチを見たとき、天津人の創造性に驚かされた。
楽天性と適応力:変化を乗り越える力
天津人の性格は、楽天性と適応力にも特徴がある。天津は、歴史的に戦乱や経済の浮き沈みを経験してきた。近代の租界時代から、現代の濱海新区の開発まで、天津は常に変化の波にさらされてきた。こうした環境が、天津人に前向きで柔軟な性格を育んだ。私の近所の趙さんは、天津でタクシー運転手をしている。彼は、コロナ禍で収入が減った際、配達員の副業を始め、家族を支えた。「天津人は、愚痴を言っても始まらない。どんな状況でも、道を見つけるよ」と彼は笑う。
この適応力は、現代の経済環境でも発揮される。天津は、港湾都市として物流や製造業の中心であり、近年はハイテク産業も成長している。多くの天津人が、新しい技術や知識を学び、都市の変化に対応している。濱海新区のオフィスで、若いエンジニアがAI技術を研究する姿を見ると、天津人の向上心が感じられる。ただし、この楽天性は、時に「無計画」と誤解される。だが、天津人の適応力は、単なる軽さではなく、変化をチャンスに変える知恵なのだ。
コミュニティと人情味:街の温もり
最後に、天津人の「人情味」を忘れてはならない。天津人は、表面的にはユーモラスに見えるが、家族や友人、近隣への深い思いやりを持つ。鼓楼の古い胡同で、隣人同士が夕飯のおかずを分け合ったり、子供の面倒を互いに見たりする光景は、天津の温かさを物語る。私の知人の陳さんは、天津で小さな食料品店を営む60歳の女性だ。彼女は、近所の老人が買い物に来た際、代金を後でいいと言って商品を渡す。「天津人は、人が人を支える街。困ってる人を放っておけない」と彼女は言う。
この人情味は、天津のコミュニティ文化に由来する。胡同や茶館は、天津人が交流し、絆を深める場だ。天津の人は、困っている人に手を差し伸べる義理堅さも持つ。私の友人の馬さんが、仕事で失敗した同僚を励まし、自分の人脈を使って新しい機会を紹介した話を聞いたとき、「天津人は、仲間を見捨てない」と彼の言葉が胸に響いた。この絆は、都市の喧騒の中でも、天津人を愛される存在にしている。
天津人の性格は、ユーモアと話術、義理堅さと正直さ、美食へのこだわり、楽天性と適応力、そしてコミュニティと人情味という五つの要素で織りなされている。彼らは、笑いで人生を彩り、信頼で絆を築き、変化を笑顔で乗り越える。天津を訪れるたび、私はこの都市の魂が、実はその住民一人ひとりの心の中にあることを感じる。天津人を知ることは、天津という歴史と現代が交錯する土地を理解する鍵であり、彼らの生き方には、私たちに多くのことを教えてくれるヒントが隠されている。
(文・青山淳英)
(中国経済新聞)