春節前の大移動が始まった中国は、故郷に帰る人たちで各地の駅がごった返している。吉林省長春に住む60代の王春樹さんは妻とともに、ソーセージやきくらげなど新年の土産物をどっさり抱え、21時間近い長旅の末江蘇省の蘇州に到着した。娘の勤務地で一味違った春節を迎えるためである。 このような「逆帰省」をする人が、のべ90億人という大移動の中で増え始めている。
「反対方向で家族と過ごす」―― 王さんは「娘は最近仕事が忙しく、こちらはリタイヤしたばかりということで、春節は蘇州で過ごそうと決めた」という。初めてという「逆帰省」の道のりは混雑もせず、到着後は娘とともに緑地や古い町並みをぶらぶらした。「どちらが行くにしても一緒。どこでも家族団らんだ」とのことである。
通信キャリアのデータによると、2024年の春節で移動する人のうち、60歳以上の割合は去年より30%近く増えるという、四川省、河北省、湖北省、湖南省などに住む人が、子供の勤務地である北京、上海、広州、深セン、杭州など大都市で家族団欒しようというお年寄りが増えている。
貴州省から南京へやってきた瀋さんは、高速鉄道網や航空路線が充実してどこでも気軽に行けるようになったこと、スマホ一つで切符が買えるようになったことに喜びを感じ、思い切って都会で「子供のお供」をしようという気になったという。
会社勤めの場合は帰省にも時間がかかるが、「逆帰省」の場合は列車の切符もとりやすく、料金も安めとなる。同程旅行(LY.COM)の「2025年春節旅行傾向報告」によると、このような旅行をする人が多く、航空券代は最高で50%~70%も安くなるという。
南京に住むデザイナーの林佳さんは、故郷の湖南省にいる両親と祖母を招いて大都市を味わってもらい、一家団欒と都会の「ミニレジャー」を楽しもうと計画している。「人気の火鍋店で年越し料理を食べ、旅行の計画も立てている」とのことである。
また各都市で、客足を招こうと催し物なども用意されている。広州の花城広場では中国の春節の代表格となるライトショーが行われ、四川省の成都では街全体がパンダの繁殖基地と一体化するファミリー向けの「新春文化遊」が催される。「逆帰省」は「ミニレジャー」に変わりつつあるようだ。
社会学に関する複数の専門家によると、このような「逆帰省」は中国古来の文化が崩れたということでなく、伝統が移り変わっていることの表れで、「逆移動」の団らんでも親子の愛情などは変わらないものという。こうした現象は、春節の過ごし方について親も子も新たな認識が形成されつつあるが故の結果だと見ている。
南京大学都市科学研究院の胡小武執行院長は、「若者の中には、この時期に帰省すると、『不慣れ』や『形式感』、『孤独感』を覚え、短期間でそそくさと帰る人もいる。親が都会に来ればもっとゆっくり家族で過ごせるし、都会の文化や雰囲気も味わえ、家族の間で自然と新しい認識が生まれる」と言う。
また、都市化が進むにつれて「地方人」と「都会人」の区別が薄くなり、「逆帰省」によって地方と都会の文化がまじりあうようになるともみられている。江蘇省無錫で働く「2000年代生まれ」の張凡さんは、「親が都会に来ればこちらの暮らしぶりが間近でわかるし、頑張る子供の姿を誇りに思い、お互い理解が深まる」と話している。
移動の方向が変わって一家団らんの形も変わるという「逆帰省」が増えてゆく中、世代間のぬくもりや都会と地方の文化の一体化が進む春節は、「団らん節」として、昔も今も変わらず「一家そろって年越し」というみんなの思いを伝えるものである。
(中国経済新聞)