2024年最初の講演会は、北京での開催となった。
1月13日、北京の中国国際展覧センターで年に一度のブックフェアが行われた。私は新書「日本人の性格」を書き下ろしたことで、中国出版集団から、「日本社会と日本人」をテーマに講演をして欲しい」と依頼されたのである。
収容100人の会場に160人以上が詰めかけ、多くの人が1時間半も立ちっぱなしで最後まで聴いてくれた。陝西省の西安、遼寧省の瀋陽、山東省の青島などから飛行機や高速鉄道で駈けつけてくれた人もいて、とても感動してしまった。
講演の後で、1時間以上にわたりサイン会をした。そこでもまた、100人以上が列をなしていた。
こうしたことから、日本に対する中国人の関心度は非常に高く、日本を知りたいという気持ちが強いことがわかる。
しかしサイン会で、2人ほど抗議する人がいた。原発の処理水排出を口に出し、「日本を持ち上げるとは売国奴だ」などと言ったのである。
私は中国で過去数年間、30回以上も日本に関する講演会を行ったが、会場で抗議を受けたのは今回が初めてだった。
その翌日に北京で2度目の講演をした際、参加者を前に「皆さんは日本の一体何が憎いのか」と尋ねてみた。
反応は次の通りだった。
一、 台湾問題に口を出し中国に内政干涉をしている。
二、 福島原発の処理水排出が海洋環境をひどく汚染し、中国人は海産物を食べられなくなっている。
三、 アメリカと結託して半導体産業で中国に輸出規制をしている。
四、 自衛隊の幹部が靖国神社を参拜し、軍国主義を復活させようとしている。
中国ではこの4点がSNSで誇張され、日本を骨の髄まで憎んでいる人まで出ている。
上海東方テレビ局が主催した「新年音楽会」では、日本の音楽らしきものが演奏されたことから、ネット上で抗議を受けた。
中国では今、公の場で日本を良くは言えないし、アメリカも良く言えない。たちまち抗議されるからだ。「日米両国は中国人の敵だ」などと見る人までいる。
このような憎しみにむしばまれた中国では、日本やアメリカに対する興味が大きく後退しており、日本の話を避けたり、アメリカの話を避けたり、また日本への旅行に関心を持たない人がかなり多い。
政府観光庁の最新のまとめによると、2023年に日本を訪れた中国人の数は236万人で、2019年より70.4%も減った。
しかしその一方、中間所得層で日本への移住を希望する人が急増している。「経営管理」や「高度な人材」といったビザで日本に住む中国人は、増える一方なのである。
すなわち、日本に対する中国人の気持ちが両極化している。好きな人はどんどん好きになり、嫌いな人はどんどんと嫌いになってゆく。
私は、中国人に日本の経済や社会、文化を紹介するWechatのアカウント「静説日本」で、2023年は353件、計50万字に及ぶ記事を発表した。閲覧数はのべ1843万回、1日平均5万回であった。
こうした数字はつまり、日本に関心のある中国人は多いけれど、日本と意思を通わせる手段が少ないことを示している。
1月2日、羽田空港で日本航空の旅客機と海上保安庁の輸送機が衝突し、旅客機の乗客乗員合わせて379人が奇跡的にも全員無事に脱出した。私はこれを記事にしたところ、すぐに広東省広州にある白雲空港の社長から「日航の脱出訓練についてもっと学びたい」との連絡を受けた。そして2月4日、私は日航の訓練専門家とともに広州に赴き、講習や指導をしてもらった。
確かにそう、景気が後退していく中国で、日本からバブル崩壊への対応のあり方について経験や教訓を教わるのもよい。中日両国の協力や交流は、経済だけでなく様々な分野できっかけがありそうである。
2024年は、中日両国の交流で幸先のいいスタートの年となってほしい。
(文:徐静波)
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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。
講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。
日本記者クラブ会員。