恒大ショック、中国不動産業界が激震

2022/04/26 16:08

 中国の不動産大手「中国恒大集団」の経営危機がにわかに注目を浴びている。

 中国恒大集団は、1996年に広東省広州市で、董事局主席(会長)の許家印氏が創業した民間の不動産開発企業だ。現在、中国最大の不動産企業と言われている、従業員数は16万人を超える。

 不動産開発には多額の資金が必要な上に、電気自動車製造、サッカークラブなど経営の多角化を進めるために、さらなる借り入れや外債を中心とした債券発行を行った結果、同社の負債はみるみる増加していった。

 恒大集団が公表した報告書によると、現在の負債総額は1兆9665億元(約34兆円)と巨額だ。中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当する負債を抱える企業が無策のまま破綻すれば、その影響は計り知れない。

 2021年9月20日、同社のデフォルト(債務不履行)懸念を受け株価が急落。10月12日、恒大集団は社債の利払いを再び見送った。過去3週間で3回目の利払い見送りとなった。ショックは欧州、米国、そして連休明けの日本にも波及し、世界同時株安の様相を呈した。

 一部世論では、「第2のリーマン・ショック」、「中国経済崩壊」を懸念する声も聞かれる。恒大ショックで中国経済は危機に陥るのだろうか。

 なぜ、恒大集団は経営破綻危機に陥ったのか?

中国政府の不動産規制強化が危機の引き金となった。

 中国政府は2020年8月、デベロッパーに対し資金調達の制限に関する指導を行なった。そこで示されたのが、「三条紅線(三つのレッドライン)」と呼ばれる基準だ。

 一、(物件前売りで得る資金を除く)資産負債比率が70%以下

 二、自己資本に対する負債比率が100%以下

 三、短期債務を上回る現金保有(現金÷短期債務∨1)

 この三つの基準の達成数に応じて、デベロッパーを「緑(三つ達成)」「黄(二つ達成)」「オレンジ(一つ達成)」「赤(全て未達)」の4グループに区分し、年間の有利子負債の増加額を、「緑」は15%以内、「黄」は10%以内、「オレンジ」は5%以内に抑え、「赤」は増加を認めないという内容だった。

 この基準を一つも達成できていなかった恒大は「赤」に分類され、資金調達が困難となる。

 

恒大集団が危機に陥った大きな原因のもう一つは、政府の政策を見誤ったことである。

 不動産業界は過去30年間、中国経済を支える三本柱の一つであり、生活や国民の「幸福感」に関わるものであった。よって政府は常に、経済を成長させるために不動産市場の発展を維持することを常に考えていた。

 中国の不動産バブルは、かねてから世界の金融界や経済界で取り上げられていた。

 中国政府は、2008年のリーマンショックの後に4兆元(約70兆円)規模の救済策を打ち出したが、このお金は民間企業には回らず、ほぼ全部が大手国有企業に渡ってしまった。国有企業はあたかも宝くじに当たったかのように、一夜にして莫大な資金を手にし、次々と不動産に手を付け始めた。

 2014年ごろにバブルが最高潮に達し、上海、北京、深センなど大都市の住宅価格がたった5年間で2倍になった。これで大量の物件が売れ残り、多くの不動産企業が資金繰りに苦しみ、深刻な経営危機に陥った。

 そこで各企業は、政府は決してこのバブルを崩壊させるまいと信じ、「政策」にすべてを託したのである。仮に崩壊すれば、土地を売った地方政府や融資をした銀行が損をし、一方で購入したことで損害を被った消費者が政府機関に訴えたりするなど、社会が不安定になってしまうからである。

そして大方の予想通り、結局は政府が窮状を救ったのである。

 しかし、習近平主席はここ数年間、「家は住むものであり、投機の対象ではない」と何度も述べ、住宅価格を抑制するよう各地に求めてきた。これは単なる口約束でなく、地方政府に対して次々と不動産業界引き締め策が打ち出されている。

 ところがこうした中で、不動産業界はまたも政策に賭けたのである。恒大集団は、2014年のような状況が再現すると考え、競争を勝ち抜くために資産を積み、負債を抱え、回転率を上げるという運営モデルを継続した。しかし、今度はその賭けに失敗した。

 住宅価格は所得水準を大幅に上回るくらいに値上がりし、家のあるなしで都会暮らしがランク分けされるようになった中、農村部の人の都市部への定住率が下がり、国民の間で、よりよい暮らしを求めて頑張ろうという意欲が薄れていった。政府は不動産市場を、社会や経済の安定性を損なう重大な欠陥であると見るようになった。

 そこで、適度にそのバブルを崩すことが政策として必然的なものになり、負債率の高い会社がまずやり玉にあげられた。

恒大集団が期待していた政府の救済策はもうあり得ない。

 恒大集団の経営破綻を巡る懸念が高まり、中国の不動産業界全体に影響を与えている。

 別の中国不動産開発会社、当代置業(モダン・ランド)は、債務返済の延長を要請。新力控股(シニック・ホールディングス)は、2億5000万ドル相当の社債について、デフォルト(債務不履行)となる可能性が高いと発表した。新力控股の株式は先月に90%近く下落した後、取引停止となっている。

 上海証券取引所のデータによると、12日午前の取引で上場債券の騰落率トップ5はすべて不動産会社が発行したものだった。

 中国政府は、不動産バブルが崩壊すると経済全体に打撃が生じ、GDP成長の足を引っ張りかねないことも認識している。よって、恒大ほか大手各社をすぐに解体するようなことはせず、緩やかにけりをつける策を講じるはずだ。

 最新の情報によると、恒大集団は、国有企業や政府系ファンドの出資により、民間企業から政府系企業に移行するという。そして11月には、不動産市場を安定または緩和させる政策が打ち出されるだろう。(中経 山本博史)