32歳女性が高収入の職を手放して山奥へ

2022/07/27 08:00

広州黄埔区の紫薇は三年前、高収入の仕事を辞めた。そして、一人山へ入り、完全に独立した生活を望むようになった。

彼女が住む場所には大きな竹林がある。さらに彼女はレモンや柳、ツツジ、楓を植え、今では人の腰の高さまで成長した。そよ風が小枝を揺らし、その景色は水墨画のように美しい。

彼女はブログで自らを「FIREを実行する者」と書いている。FIRE(financial independence, retire early)とは、経済的に自由で、早期退職した者のことである。アメリカから広がったこの運動は、物欲よりも、質と幸福感を重視する生活スタイルだ。

この選択をするまでに、彼女は長い道のりを経験した。

紫薇はアメリカに留学し、卒業後はアメリカの国際的な大企業で働き始めた。正社員になって一年が経つと、「優秀な社員」と評価されるようになった。しかし、彼女は達成感を覚えられなかった。「何も目的もなく、ただ大企業にいるのは嫌だ」と思い、2014年に離職して帰国した。そして、起業した。

起業後、ストレスは増えたが、毎日一生懸命働いて一日の睡眠時間が三、四時間だけになると、ようやく充実感を覚えた。「より多くのことをしたいといつも思い、常に満足していなかった」。当時の彼女の生活スタイルと考え方だ。理想が高く、強情で完璧主義、強気な性格で少し頑なだった。小さな頃から受けてきた教育と伝統的な価値観が「仕事をしなければ」と彼女に思わせるのだった。

「壊れてしまった」。心の中で何かがはじけてしまった時のことを、こう表現する。

起業から5年たった2019年、コロナの影響で経営する会社の採算が合わなくなった時、何年も休むことなく働き続けた体と心のバランスが崩れてしまった。力を入れても、もはや動かなくなってしまった。解決されていなかった心のわだかまりを、仕事がもたらす一時的な達成感で覆い隠していたことにようやく気がついた。彼女がこれまで一生懸命に築き上げてきた生活は、砂でできた美しい城のように、瞬く間に傾き、倒れてしまった。

彼女の選択は多くの若者とは真逆だった。2022年に高校を卒業する見込みの生徒は1076万人に上る。世界的に厳しくなりつつある経済状況とコロナの影響を受けて、2022年6月の中国における青年らは、19.3%という失業率の濁流に飲み込まれている。多くの若者は必死に職を探したり、公務員試験や大学院入試を受けたりして、なんとか丘に上がろうとしている。

その一方で紫薇のように経済的、時間的な余裕があり、高い教育と素晴らしい職業経験にめぐまれた若者たちも、心の中で別の葛藤を抱えているのかもしれない。FIREをした紫薇はこの先、本当の自分に出会えるのだろうか。

(中国経済新聞)