中国の広大な県域経済の中で、江西省南豊県は2019年にようやく「貧困脱却」を果たしたばかりだ。人口は30万人余りで、県域の平均常住人口(約39.9万人)を下回り、年間GDPも約100億元(約2000億円)程度。長らく、帰省する若者たちの間で「故郷の消費は貧しい」という感慨が共通だった。連鎖型の大型ショッピングモールはほとんどなく、食事の選択肢も限定的。そこで、多くの人が大都市から大量の御土産を抱えて帰省する光景が、毎年春節(お正月)の恒例の風景となっていた。
しかし、今年の春節は様子がすっかり変わった。
この県城に初めてオープンしたケンタッキーは、新しくできた商業街の一角に位置する。店舗面積は約100平方メートルほどで、席数は10テーブル未満。メニューは定番のフライドチキンやバーガー中心で、価格は一二線都市に比べて少なくとも3割以上高い。それでも店内はいつも満席で、主に若者や子ども連れの親が目立つ。

このケンタッキーが入る商業街は、地元の人々から「新CBD」と呼ばれている。一方、1キロほど離れたもう一つの古い商業街は「老CBD」。その目玉は3年前にオープンしたラッキンコーヒーだ。特に春節期間は、コーヒーが一杯も手に入らないほどの人気で、デリバリーは行わず店頭受け取りのみ。平均待ち時間は1時間以上になるという。
席も争奪戦で、地元らしいユニークな光景が広がる。多くの人がここで長時間おしゃべりしたり、トランプをしたり。一杯のコーヒーに自分で持ってきたひまわりの種を添えて、午後いっぱい座り込むのだ。
今年の春節、このケンタッキーとラッキンコーヒーは、まさに「故郷」の新旧二つの「CBD」の流量中心となった。普段大都市で働く若者たちは、外ではこれらを「社畜の命の糧」として安価に消費しているのに、故郷に戻ると自ら進んで「チェックイン」しに行く。彼らにとって、これらのブランドは「故郷の経済がアップグレードした象徴」なのだ。
こうした変化は、この一つの県城に限った話ではない。ますます多くの「故郷」が、同じような瞬間を迎えている。
ケンタッキーは「田舎型店舗」モデルを採用し、例えば江西のこの店舗のように、面積を100平方メートル程度に抑え、投資コストを最低50万元(約1140万円)前後に圧縮。一二線都市の単店投資が500万元(約1億円1409万円)を超えるのに対し、大幅に低減されている。また、一部商品項目を簡略化し、運営コストと難易度も大幅に下げている。
このような迅速な複製・地方都市進出モデルのおかげで、2025年にはケンタッキーが全国で純増1349店舗を達成し、400以上のこれまで未進出だった空白地方都市に進出した。2025年10月時点で、全国約1.2万店舗のうち、3600店舗が三線以下地方都市にあり、県城への浸透率は60%を超えている。
一方、ラッキンコーヒーはすでに1550の県城に進出し、全国の県域の80%以上をカバー。県域店舗数は7400店舗を突破した。

これらの興味深い数字は、一つの小さなトレンドを示している。中国の県域消費力が急速に台頭する中、一二線都市とそれ以外の地域の間で、消費の「平等化競争」が繰り広げられているのだ。かつては大都市だけの特権だったブランドやライフスタイルが、今、田舎の街角で日常的に味わえるようになっている。
(中国経済新聞)
