内外激動、大乱の世界と向き合うために

2026/01/26 11:30

内外ともに大乱、激動を予感させる年明けとなった。

 年初、トランプ大統領のアメリカによるベネズエラ侵攻、マドゥロ大統領の拉致が実行された。昨年秋ごろから、ベネズエラにかかわるとされる船舶や港湾施設への米軍機による攻撃、殺傷が続いていたことからいえば意外ではないが、世界に衝撃が走った。このような非道が許されるものではないことは言うまでもないが、今回のベネズエラ侵攻にはまだ明かされない深奥でのあれこれがあることなど、真相は依然確たるものとはなっていない。しかし、米CIAによる周到な浸透工作があったことは米国メディアで語られていることでもあり、ホワイトハウスも否定はしていない。これはわれわれが世界を見据える際に極めて重い示唆をもたらすものとなる。すなわち、中南米にとどまらず、これまで世界各地における数々の政権転覆で語られてきたCIAによる関与がスパイミステリー的「陰謀論」などではなく、あたかも「普通」のこととして語られるようになっていることはトランプ時代の「異形の境地」と言わざるを得ない。最も新しいところでは、トランプ政権「当局者」らはマドゥロ大統領を拘束するずっと以前からベネズエラの治安機関を統括するカベジョ内務・法務相と「協議」していたとロイターが伝えた。「カベジョ氏とのやり取りはトランプ現政権の初期にさかのぼり、マドゥロ氏拘束直前の数週間も続いていた。同氏に対する起訴や米国の制裁についても協議されたという。また、マドゥロ氏拘束後も連絡を取り合っている」(ロイター1月17日)というのである。ベネズエラの深部にまで米国による「蚕食」が進んでいたというわけだ。米国というものがいかなる存在であるのか、今回のベネゼラ侵攻、マドゥロ氏拉致の背後に横たわる構造的問題は、実に根深いものであることをわれわれに告げ知らせるものとなっている。

 中国は時を置かず、外交部報道官が「米国が主権国家に対して強引に武力を行使し、さらに一国の大統領に手を出したことについて、中国は深く驚愕し、これを強く非難する。米国のこのような覇権的行為は、国際法に深刻に違反し、ベネズエラの主権を侵害するとともに、ラテンアメリカ・カリブ海地域の平和と安全を脅かすものだ。中国はこれに断固として反対する。我々は米国に対し、国際法及び国連憲章の趣旨と原則を遵守し、他国の主権と安全保障を侵害する行為を直ちに停止するよう強く促す」と米国を厳しく批判した。しかし、今回の事態はそうした原則的立場にとどまらない、中国にとって実に深刻な問題としてあることを知らなければなるまい。すなわち、習近平指導部が高い警戒心を抱く「和平演変」が単なる字面上の問題ではなく現実的な危機感をもって対すべき難事であることをあからさまにしたということである。

 ここで思い起こすのは、かつて本欄でも取り上げた、2023年秋、新華社のシンクタンクが公表したレポート「米国軍事覇権の根源・現実・害毒をあばく」である。「米国の軍事覇権は、超軍事力で外国に強制的に干渉し、他国を支配する米国の行動であり、一極世界と覇権秩序の追求と維持の中核的な柱である」「軍事覇権を模索し維持する過程で、米国は常に『自然運命』論やアメリカ『例外主義』理論などの『帝国思想』に固執し、海の力の理論と覇権的安定の理論の助けを借りて覇権的行為を正当化し、頻繁に戦争を開始し、熱心に介入し、絶対的な力と狭い利益に駆り立てられ、陸・海・空、さらには宇宙空間をあらゆる方向に支配し、いわゆる『米国の下での平和』を確立することを意図して、他の国々を執拗に支配してきた」と述べて、膨大な米国の文献、史料に基づいて米国覇権の内実を解き明かしている。イデオロギッシュなスローガンのレベルではなく、米側資料と事実に基づいた、米国のありように対する精緻かつ本質的な批判として説得力を持つレポートと言えるが、今回のベネエラ侵攻に至る政権深部への工作は、ここに剔抉されている米国覇権に内在する根深い問題を、また改めて世界に知らしめることになった。もちろん、トランプ政権の「特殊性」と言うべき側面があるとしても、米国覇権に通底する本質を見誤ってはならないという示唆として、われわれの認識を深くすることを促している。

 また、トランプ氏の「思惑」として石油資源への食指が働いたことは多方面の指摘通りだが、それにとどまらず、中南米・カリブ諸国にまで広がる「一帯一路」イニシアティブによる「非米世界」の胎動をなんとしても抑えて、中国の影響を自己の「裏庭」から排除したいという地政学的世界観に衝き動かされた複合的な動機性を孕むものだということも見ておかなければなるまい。

そこで目を転じて「内」の問題である。

 高市首相は23日からの通常国会冒頭の解散に踏み切ることになった。年初9日夜、読売新聞の「独自ネタ」として報じられ翌朝の一面を飾ったスクープ記事が発端となり、その後各メディアが追って既定事実となった経緯は周知の通り。政治記者、政治評論家などから様々な理屈付けがおこなわれているが、高市氏の「手詰まり」「行き詰まり」による解散であることは見逃されている。

翻って、「戦略的な財政出動で強い経済を」とする昨年末の補正予算についてエコノミストからは「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」を悪化させる懸念を指摘され、金利上昇(国債価格の下落)と円安など産業・経済の根幹にかかわる危惧を払拭できず、ひたすら株高のみに沸き立つ世情に庶民の暮らしは一向に楽にならない諦めと閉塞感が漂う。外交においては、自ら招いた対中関係の「行き詰まり」に打開の道をひらくことができず、産業・経済への影響が深刻となる一方である。対米関係においても、トランプ大統領の下僕たる「身過ぎ世過ぎ」を一歩も出ることができず、トランプ氏が実質的には「白旗」を掲げ「融和」に動く米中関係に焦りが募り、とにかく早期の訪米を懇願するばかりという体たらくである。さらに、週刊誌が報じる、高市氏や閣僚にかかわる政治とカネの疑惑の浮上、旧「統一教会」(世界平和統一家庭連合)の政界工作を詳らかに記した内部文書が韓国で明るみに出て高市氏の名も頻繁に登場するなど、政権発足3か月にしてスキャンダルが目白押しとなっている。

 「高市推し」などという皮相な囃し立てがメディアを賑わすが、冷静になって考えると、まさに「八方ふさがり」という政情の果ての、いわば「三百代言」的解散と言うべき局面に、高市氏の「頼り」は国民の信を集めることのできないふがいない野党という皮肉な構図が生まれている。国民にとっては不幸としか言いようのない国難である。

「世界は大きく変わった。私たちのパートナーシップは新しい世界秩序への良き準備となる」とは、8年ぶりの訪中で習近平主席と会談したカナダのカーニー首相の言である。くどいほど繰り返し「変わる世界」と説き続けてきた本欄であるが、内外共に世界は大きな転換の時を迎えていることを改めて痛感する。まさしく、われわれの眼力と識見が深く問われる時代に立ち至っていることを肝に銘じなければならない。

(文・木村知義 、(1月18日記))

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【筆者】木村知義(きむら ともよし)、1948年生。1970年NHK入社。アナウンサーとして主に報道、情報番組を担当。1999年から2008年3月まで「ラジオあさいちばん」(ラジオ第一放送)のアンカーを務める。同時にアジアをテーマにした特集番組の企画、制作に取り組む。退社後は個人研究所「21世紀社会動態研究所」で「北東アジア動態研究会」を主宰。