京東が高らかに「自動車市場に進出」を宣言、そのビジョンとは

2025/10/18 07:30

中国の自動車産業は、近年、異業種からの参入が相次ぎ、テスラやBYDのような新興勢力に加え、伝統的な家電メーカーやIT企業が次々と「造車(自動車製造)」に乗り出している。そんな中、eコマースの巨人・京東(JD.com)がついに本格的に自動車市場に進出する方針を高らかに宣言した。中国のクロスオーバー造車ブーム、ついにeコマース界に吹き込んだ。

10月15日、京東は寧徳時代(CATL)と広汽集団(GAC)と共同で、「国民好車(国民に優しい車)」と銘打った新型車を投入することを発表。ユーザーの洞察力や購入・メンテナンスのエコシステムを活かし、広汽の製造力と寧徳時代のバッテリー技術・換電ネットワークを融合させるという。この動きは、中国の自動車消費を革新する一石を投じるものだ。

この「国民好車」は、安全性、バッテリーと充電・換電システム、車両関連サービス、価格の4つの面で画期的なブレークスルーを目指す。具体的には、京東の膨大なユーザー データから得られる消費者のニーズを反映し、広汽の生産ラインで実現、寧徳時代の先進バッテリーで長距離走行を支える。車両の詳細スペックは現在、厳重に機密扱いされているが、発表の場で京东側は「一站式(ワンストップ)の自動車消費新モード」を強調。購入からメンテナンス、保険、アクセサリーまでをプラットフォーム上で完結させる構想だ。双11(11月11日の大セール)期間中に正式公開予定で、eコマースの強みを活かしたオンライン販売が鍵となるだろう。

実際、この発表は京東にとって「初の造車」ではない。すでに物流分野で自社開発の無人軽トラック「京東物流VAN」をリリースしており、業界に衝撃を与えている。このVANは、物流業界最大級の積載量を誇り、自動運転技術の粋を集めた一台だ。搭載する比亚迪製のカスタム・ワイヤーコントロール・シャーシに、3基のLiDAR(レーザー・レーダー)、20基のカメラ、12基のミリ波レーダーを組み合わせ、L4レベルの自動運転を実現。貨物室は24立方メートルで、最大積載量1トン、満充電で400kmの航続距離を可能とする。これにより、従来の4.2m貨車の18〜20立方メートルに比べて30%以上の積載効率向上を実現し、人件費や燃料費を60%削減できるとされる。

京東物流VANの役割は、長距離高速輸送やラストマイル配送ではなく、「短距離中継(短駁)」に特化している。例えば、集配センターからコミュニティ前置倉庫への荷物移送、または大口商品の倉庫から配送端末への運搬。これらのルートは、従来人手による運転が主流だったが、無人化により効率化を図る。現在、北京や広州を含む30都市で試験運用中で、2026年までに1,000台規模の展開を目指す。京東の全国的な物流ネットワークと化学反応を起こし、eコマースの配送速度をさらに向上させる狙いだ。

このような造車への本格参入は、京東創業者・劉強東氏の長年の戦略的レイアウトの賜物だ。2015年、京東はEV新勢力「蔚小理(NIO、XPeng、Li Auto)」のNIOにAラウンド投資で参画。以降、自動運転技術、車両メンテナンスサービス、チッププラットフォームなど、インテリジェント自動車のサプライチェーン全体を構築してきた。こうした蓄積が、いつしか民生用EVとして結実するのも当然の帰結と言える。最初に物流VANで突破口を開いたのは、京東のコアビジネスである物流体系とのシナジーを最大化するためだろう。

劉強東氏の野心は、造車にとどまらない。外売(フードデリバリー)分野への投資も加速しており、京東の商業版図はeコマースを超えて拡大中だ。自動車市場は、3C(家電)のような高毛利品類の成長鈍化や、拼多多の低価格攻勢、抖音(TikTok)のコンテンツコマース移行といった課題を抱える京東にとって、理想的な新フロンティア。自動車消費は意思決定プロセスが長く、情報量が多く、単価が高いため、京東の中産階級ユーザー層の「合理的消費」心理にぴったり合う。今回の「国民好車」プロジェクトでは、京東がユーザー調査や価格感度を主導し、製造側にフィードバックする「プラットフォーム逆カスタマイズ」モデルを採用。これは、かつての「京造(JD自社ブランド)」戦略を彷彿とさせる。

中国のクロスオーバー造車ブームは、依然として過熱気味だが、京東の参入は独自の強みを活かしたものだ。eコマースのデータ駆動型アプローチで、単なる「車作り」ではなく、消費エコシステムの構築を目指す。双11での公開が、市場にどのような波紋を広げるか注目される。劉強東氏の「人生最後の起業」と揶揄される雷軍(Xiaomi)氏の造車成功に続き、京東もまた、新たな神話を紡ぎ出すのか。中国自動車産業の未来を、京東のエンジンが加速させるかもしれない。

(中国経済新聞)