低価格競争が常態化する白酒(パイチュウ)のネット販売 酒販業者からは「底なし値下げ」への懸念も

2025/10/8 12:15

電商(EC)と白酒(パイチュウ)メーカーの間で、価格をめぐる摩擦が激しさを増している。

中国では中秋節と国慶節の連休を前に、主要ECプラットフォームが白酒の大規模な値引きキャンペーンを展開した。多くの有名ブランド酒が、オンラインでは卸価格を下回る水準まで値引きされ、実店舗を中心とするオフライン販売網に大きな打撃を与えている。

例えば、飛天茅台(フェイテン・マオタイ)は市場での参考小売価格が1本あたり約1900元(約4万2000円)だが、ECの特価では1700元(約3万7600円)前後にまで下がり、卸価格(約1780元/約3万9400円)をも割り込んだ。五糧液(ウーリャンイェ)の主力商品「普五(プーウー)」も、通常の卸価格が840元(約1万8600円)に対し、オンラインでは769元(約1万7000円)に設定されている。山西汾酒(シャンシー・フェンチョウ)や剣南春(ジェンナンチュン)など、他の有名ブランドも同様に、補助金を活用した「限時割引(げんじわりびき)」により卸価格以下で販売されている状況だ。

山東省・済南市の酒販業者・老盛(ラオション)氏は、「価格の乱高下で小売店は仕入れを控え、在庫を抱えるリスクを避けている。例年なら連休前に価格が上がるはずだが、今年は全く上がらず、むしろ連休後の値下がりを心配している」と話す。

複数の卸業者によれば、かつては即時配達型のECが特に安かったが、今年は大手プラットフォームも大幅な値引きに踏み切り、消費者が「オンラインでの価格比較」を習慣化。結果として、実店舗側も値下げを強いられ、利益率が急低下しているという。ある酒販業者は、「最も恐れているのは、こうした低価格販売が“常態化”してしまうこと。今年末から来年にかけて、さらに厳しい状況になるだろう」と漏らす。

かつて白酒は、メーカーの厳格な価格管理のもと、販売の主軸は実店舗に置かれていた。ECはあくまでブランドPRの場に過ぎなかった。しかし近年、ECが相次いで「低価格名酒」を打ち出し、メーカーによる価格統制は実質的に崩壊。オンラインとオフラインの価格差が、業界構造のひずみを浮き彫りにしている。

白酒業界の独立アナリスト・肖竹青(シャオ・ジューチン)氏は、「オンラインでの低価格販売が止まらないのは、景気低迷で消費が鈍り、卸業者が在庫処分を進めていることが一因だ」と分析。そのうえで、「今や中国のEC業界全体が「全網比価*(チュエンワン・ビージャー)」という悪循環に陥っている」と指摘する。

※「全網比価」とは、中国のEC業界で広く使われる言葉で、すべてのプラットフォーム間で商品の価格をリアルタイムに比較し、最安値を自動的に提示・競争する仕組みを指す。消費者はどのサイトでも最低価格を探すようになり、販売側は利益を削ってでも価格を下げざるを得ない構造が生まれている。

肖氏はさらに、「茅台や五糧液のような高級酒でさえ、“利益度外視”の集客ツールとなっており、こうした過剰な値下げ競争が伝統的な流通体系を破壊している」と警鐘を鳴らす。

一方で、酒仙グループ(ジウシェン・グループ)創業者の郝鴻峰(ハオ・ホンフォン)氏は、EC化の進展を肯定的に捉える。「以前は白酒のインターネット浸透率が10%にも満たなかったが、今回の大規模セールを経て20%近くまで拡大した。今後5年で50%に達する可能性もある」と見通す。

業界では、ネット販売の拡大に伴い、白酒の販売モデルそのものを再構築する必要性が高まっている。肖氏は「かつては偽物や食品安全の懸念があったが、今はECでも追跡可能で安全性が向上している。価格面でも優位があるため、今後3年で半数の伝統的な酒販店が淘汰(とうた)される可能性がある」と述べた。

低価格競争の波は、白酒業界の構造転換を強く迫っている。長年築かれてきた“価格秩序”が崩れるなか、メーカー・流通業者ともに、新たな販路戦略を模索する転換点を迎えている。

(中国経済新聞)