中国でプレハブ食品を巡る論争激化

2025/10/8 11:00

中国の飲食業界において、プレハブ食品(中国語名「予製菜」)を巡る論争が近日大きな注目を集めている。著名なネット意見リーダーである羅永浩氏と飲食チェーン「西貝の創業者・賈国龍氏との対立は、プレハブ食品の使用に関する透明性や品質、消費者認識のギャップを浮き彫りにした。この論争は、単なる企業と個人の対立を超え、飲食業界全体の規範化や消費者の信頼回復に向けた議論を加速させる契機となっている。

 論争の発端

 9月10日、羅永浩氏は中国のSNSプラットフォーム「微博(ウェイボー)」において、西貝の料理がプレハブ食品であり、価格が不当に高いと批判する投稿を行った。彼は、「西貝での食事が久しぶりだったが、ほぼ全てがプレハブ食品で、価格も高すぎる。非常に不快だ。国は早急に法律を制定し、飲食店にプレハブ食品の使用を明示するよう義務付けてほしい」と述べた。この発言は、消費者の間でプレハブ食品に対する不信感や疑問を呼び起こし、瞬く間に大きな反響を呼んだ。

 これに対し、西貝の創業者である賈国龍氏は翌日、9月11日にメディアを通じて反論。羅氏が訪れた北京の中粮祥雲小鎮店に自ら赴き、「当店の料理にプレハブ食品は一切ない」と断言し、羅氏を訴える方針を表明した。一方、羅氏は同日夜、微博でさらに反発し、「西貝の料理がプレハブ食品である証拠を提供した人に10万元(約200万円)の懸賞金を出す」と投稿し、論争は一層エスカレートした。

 9月12日、西貝は公式微博で「顧客への手紙」を公開し、羅氏の批判を「不実の指摘と不適切な表現」として強く否定。具体的な調理工程を記した「作業指導書」を公開し、焼き羊排や牛肉とジャガイモの炒め物などの料理が現地で調理されていることを強調した。しかし、この説明は新たな疑問を呼び、ネット上では「原材料の保存期間が長すぎる」「原料パックを使用することはプレハブ食品に該当する」といった声が上がり、議論はさらに過熱した。

 この騒動は西貝に深刻な影響を及ぼした。『中国企業家雑誌』の報道によると、賈国龍氏は「今回の事件は西貝が直面した最大の外部危機」と述べ、9月10日から12日にかけて売上高が大幅に減少し、1日あたり100万~300万元(約2000万~6000万円)の損失が発生したと明らかにした。

 西貝は1988年に内蒙古自治区で創業し、2025年現在、全国62都市に約400店舗を展開する大手チェーンである。2023年には過去最高の62億元(約1280億円)超の売上を記録し、2026年までの上場を目指しているが、今回の論争はブランドイメージと経営に大きな打撃を与えた。

 プレハブ食品の定義と消費者認識

 中国では、プレハブ食品について国家レベルでの定義がすでに存在する。2024年3月、市場監督管理総局など6部門が共同で発表した通知では、プレハブ食品を「農産物及びその加工品を原料とし、防腐剤を添加せず、工業的な前処理を経て、加熱または調理後に食用可能な包装済み料理」と定義している。この定義によれば、主食類や加熱せずに食用可能な即食食品、サラダなどの冷菜、中央厨房で作られた料理はプレハブ食品に含まれない。

 西貝の一部の料理、例えば「牛肉とジャガイモの炒め物」は、事前に調味された牛肉をパックし、加熱後に圧力鍋で調理し、他の具材と合わせて提供されるため、プレハブ食品に該当する。一方、小炒草原羊肉や胡麻油炒め卵などは現地で調理されるため、プレハブ食品には分類されない。

しかし、消費者の多くは「新鮮な原材料をその場で調理した料理だけがプレハブ食品でない」と考えている。中国の食文化では、新鮮さや「鍋の香り」(出来立ての料理特有の風味)が重視されるため、プレハブ食品に対する懐疑的な見方が根強い。消費者は、プレハブ食品を「工業的」「低品質」「不健康」とみなす傾向があり、特に「劣質な肉」や「古い野菜」が使用されているのではないかという懸念が強い。

 このギャップは、羅永浩氏の批判が大きな反響を呼んだ要因でもある。彼の投稿は、消費者が抱くプレハブ食品への不信感を代弁する形となり、業界全体に対する疑問を投げかけた。

 論争は業界の透明性向上への契機

 今回の論争は、飲食業界におけるプレハブ食品の使用に関する透明性の必要性を浮き彫りにした。羅氏の「プレハブ食品の使用を明示すべき」との主張は、消費者の知情権と選択権を重視する声として広く共感を呼んだ。実際、国家衛健委が主導する『プレハブ食品安全国家標準』の草案が2025年に公開され、飲食店におけるプレハブ食品の使用状況の情報開示が義務化される予定である。これは、消費者が自身の選択に基づいて飲食店を選べる環境を整える一歩となる。

 透明性の向上は、消費者と飲食業界の信頼関係を再構築する鍵となる。西貝の対応は、詳細な調理工程の公開という形で一定の透明性を示したが、消費者の疑問を完全に解消するには至らなかった。今後、業界全体がプレハブ食品の使用状況を明確に表示し、原材料の品質や調理プロセスを開示することで、消費者の信頼を取り戻す必要がある。

 論争は、プレハブ食品の品質向上を促す契機ともなった。消費者の批判の多くは、プレハブ食品の風味や栄養価に対する不満に集中している。例えば、「鍋の香り」の欠如や「工業的な味」、さらには「劣質な材料」の使用に対する懸念が挙げられている。これに対し、業界は品質を核とした競争力を強化する必要がある。

 プレハブ食品の品質向上には、原材料の選定、調理プロセスの最適化、保存技術の改善が求められる。例えば、鮮度を保つ「鎖鮮技術」や、風味を損なわない調理法の開発が重要である。今回の論争を通じて、企業は消費者の期待に応えるため、品質管理に一層注力する動機を得たと言える。

プレハブ食品を巡る議論は、飲食業界の規範化と標準化を加速させる効果ももたらしている。中央厨房やサプライチェーンの活用は、チェーン飲食店にとって効率性や味の標準化を確保する不可欠な手段である。しかし、消費者にはそのプロセスが不透明であり、プレハブ食品と現地調理の境界が曖昧であることが問題視されてきた。

 国家標準の導入により、プレハブ食品の定義や使用基準が明確化され、業界全体の規範化が進むと期待される。これにより、企業は標準化されたプロセスを通じて品質を保証し、消費者は安心して飲食店を利用できるようになる。また、標準化は、チェーン展開を目指す中小企業にとっても、参入障壁を下げる役割を果たすだろう。

 今回の論争は、消費者の食に対する意識の変化を反映している。中国の消費者は、単なる「便利さ」だけでなく、品質、安全性、透明性を求めるようになっている。

 また、スーパー「胖東来」の創業者・于東来氏が述べたように、企業への批判は破壊ではなく、改善を促すものでなければならない。于氏は「企業を壊すのではなく、改善を助けるべき」と訴え、羅氏も「真相を明らかにすることが重要」と応じた。このような建設的な対話は、業界全体の成長を促す原動力となる。

 「西貝事件」は、中国飲食業界にとって「自己革新の成人礼」となる可能性を秘めている。

(中国経済新聞)