伝統が息づく工房から広がる未来 全国1.3万拠点が描く地方再生のかたち

2025/10/7 13:30

中国文化・観光部によると、「第14次五カ年計画(2021~2025年)」期間中、全国各地で設立された無形文化遺産(以下、非遺)工房は今年6月時点で1万2,900余りに達し、関連産業で120万人以上の雇用・所得増を実現したという。

文化・観光部は、地域の伝統資源を生かした非遺工房の整備を推進し、文化の保護と伝承を進めながら、地元住民の雇用創出や所得向上につなげてきた。これまでに全国2,138の県(市・区)で工房が建設され、地域文化の継承と産業振興を兼ね備えた拠点として定着しつつある。

非遺工房の大きな特徴の一つは、文化伝承を基盤とした技能育成だ。文化・観光部によると、「十四五」期間中に延べ50万回以上の技能研修が行われ、約1,500万人が受講した。

例えば、貴州省黔東南や海南省五指山の「苗(ミャオ)刺繍」「黎錦(リーじん)」の工房は、技術継承の中核拠点として機能し、脱貧困の成果を農村振興へとつなげている。青海省互助や雲南省鶴慶などでは、自然や政策の優位性を生かし、大学を卒業した若者のUターン就職を促進。次世代の工房リーダーとなった90後(1990年代生まれ)や00後(2000年代生まれ)の若者たちが、伝統の刺繍を“国潮”(中国風トレンド)ファッションとして再解釈し、手工銀器を世界市場へ送り出している。

非遺工房は文化の継承だけでなく、経済発展の原動力にもなっている。統計によれば、全国の1.29万余りの非遺工房が関連産業で120万人以上の雇用を創出し、平均月収は約3,900元に達している。

河北省曲陽県では、名産の曲陽石彫を基に約200の工房が設立され、年間生産額は80億元を超える規模に成長。浙江省龍泉や四川省雅安でも、青磁や蒙山茶を中心とした工房群が形成され、「小規模・大集団・共に豊かに」という新たな産業モデルが広がっている。

また、多くの地域では非遺工房を観光ルートに組み込み、「一村一品」の文化ブランドとして定着させている。四川省龍黄村の「竹芸村」、貴州省麻料村の「銀匠村」、新疆加依村の「楽器村」などは、非遺と観光、農業を融合させた“村の名刺”として人気を集めている。

非遺工房は、地域コミュニティの再生にも寄与している。湖南省湘西では「お母さんを故郷へ戻そう」プロジェクトを実施し、留守家庭の女性に有給の技能研修を提供。多くの母親が地元で働けるようになり、「子を育て、花を刺し、自立して家庭を支える」生活を実現した。

さらに、内蒙古自治区や広西チワン族自治区、西蔵(チベット)、寧夏、新疆ウイグル自治区などの少数民族地域でも、2,400余りの非遺工房が設立され、民族間の交流・協働が進み、共生と発展を促している。

文化・観光部の盧映川副部長は、国務院新聞弁公室での記者会見で次のように述べた。「現在、非遺保護への社会的関心と支持はかつてなく高まっています。今後も体系的な保護を着実に進め、非遺と現代生活の接点を見出し、優れた伝統文化が新時代においていっそう輝くよう取り組んでいきます。」

非遺工房は、文化の継承、経済の発展、地域の再生という三つの軸を結びつけ、地方創生の新たなモデルとして全国に広がっている。

(中国経済新聞)