中国EC大手の京東(JD.com)が、外食産業に本格参入した。7月20日、北京市東城区に1号店をオープンした「七鮮小厨」は、開業初日に800食の注文が完売。試験営業の段階で単日売上が1,000食を突破し、1か月で累計3万件の注文を記録するなど、華々しいスタートを切った。背景にあるのは、京東が十数年かけて築き上げた強固な供給網だ。

供給網を武器に「透明・迅速・安心」を実現
「七鮮小厨」では、生鮮大手との直接取引により仕入れを一本化。中央加工工場で食材を下処理し、冷蔵物流で店舗へ配送する。厨房ではロボットが調理を担当し、最短5分で料理を提供。さらに、店舗ごとに「24時間厨房ライブ配信」を実施し、利用者はスマートフォンからリアルタイムで衛生状態を確認できる。
これにより、従来の外食やデリバリー業界で課題となっていた「不透明な調理環境」や「冷めた料理」といった不満を解消。利用者は十数元(数百円)で、出来たての温かい料理を安心して注文できる。

「合伙人計画」で料理人を巻き込む
京東の創業者・劉強東氏が打ち出したのが「合伙人計画」だ。料理人が独自のレシピを提供すれば、京東が仕入れ・店舗運営を全面的に引き受け、料理人には最低保証金100万元(約2000万円)に加え、売上に応じた分配が上限なしで支払われる仕組みとなる。
発表から1か月で応募は6.6万件に達し、北京の「嘉和一品」や「紫燕百味鶏」など有名ブランドも参画を表明。従来、全国展開には多店舗展開が不可欠だったが、京東との提携により、一気に数千店舗規模での露出が可能になる。
美団との対比 ― 「袋鼠」vs「七鮮」
中国デリバリー市場で最大手の美団(Meituan)は、既存の「袋鼠(カンガルー)」ブランドを軸に、加盟店から6~8%の手数料と配送費を徴収する従来型のプラットフォームモデルを展開してきた。さらに2024年には「浣熊食堂」を立ち上げ、食品安全基準や運営マニュアルを整備し、加盟店の標準化を推進している。

一方、京東は「供給網+中央厨房」という垂直統合型のモデルで差別化。食材調達から調理・販売までを自社が深く関与し、加盟店側の負担を極力取り除いている。言わば「商家を支援する美団」と「商家を直接運営する京東」という構図が浮かび上がる。
市場再編への可能性と課題
専門家の分析によれば、「七鮮小厨」は“現炒(その場調理)+透明厨房”という付加価値で消費者の信頼を獲得し、同時に加盟障壁を下げる点で差別化を実現している。しかし持続性には課題も残る。利用者が高頻度で利用する習慣をどう育てるか、価格競争を続けながらコストを抑えられるか、さらに既存の配達員ネットワークとの共存をどう図るかが、今後の焦点となる。

京東は、美団の“庭先”とも言える主要都市の外食市場に正面から切り込んだ。供給網を核にした「七鮮小厨」が、外食産業のルールそのものを塗り替えるのか。中国のデリバリー業界は、大きな転換点を迎えている。
(中国経済新聞)