中国の夏休み観光市場が、いま新しい力で活気づいている。
若者を中心に、ただ名所を巡る従来型の観光ではなく、「試合観戦」「映画鑑賞」「コンサート参加」といった特定の目的のために都市を訪れる“テーマ追求型”の旅行が注目されている。こうした体験重視の旅行スタイルが、夏の消費を押し上げる新たなエンジンとなっている。
1.サッカー大会が地域経済を後押し
この夏、各地で開催される「蘇超(江蘇省都市リーグ)」「浙超(浙江)」「贛超(江西)」「村超(貴州の村サッカー大会)」など、民間サッカー大会の人気が沸騰。観戦を目的に訪れる観光客が増加し、地域経済を大きく後押ししている。

例えば「蘇超」は、綿密な大会運営と都市との連動により、江蘇省の複数の都市を人気スポットへと変貌させた。大手旅行プラットフォーム・美団(MEITUAN)によると、7月以降、江蘇省の観光地予約件数は前年同期比で約2倍に増加したという。
一方、貴州省の「村超」決勝戦(8月9日)には、延べ18万人以上が訪れ、そのうち宿泊客は4万人を超えた。試合当日の観光関連収入は18億8千万元(約390億円)に達した。
国家体育総局の担当者は「文化・スポーツ・観光・商業の融合は消費拡大の“黄金の組み合わせ”だ」と指摘。2024年上半期には全国7地域で511件の主要イベントが開催され、関連消費規模は1600億元(約3兆2801億円)を超えたという。
2.「映画ロケ地巡り」も人気
映画の公開をきっかけに観光客が急増するケースも目立つ。
例えば、映画『長安のライチ』公開後10日間で、西安と広州の旅行者数はそれぞれ12%、10%増加。映画『南京写真館』公開後も南京市の観光客数が16%伸びた。

人気作品の効果を受け、各地では映画ロケ地を活用した観光商品を続々投入。『南京写真館』の主要撮影地である上海・車墩の「上海影視楽園」では、映画の名場面を再現した体験型ルートが人気を集めている。
3.コンサートが地方都市を活性化
歌手によるコンサートも観光需要を喚起している。
7月初旬、歌手・刀郎が山東省臨沂市で行った2公演には全国から延べ12万人が来場。直接消費は32億元(約660億円)、関連消費を含めた経済効果は46億元(約950億円)に上った。

地元はこの機会を活かし、「聴歌遊臨沂」と銘打った観光パッケージを展開。コンサートのチケットを提示すると主要観光地に無料または割引で入場できる仕組みを整え、観光客を呼び込んだ。結果、主要景区の来訪者数は25%増加した。

旅行プラットフォーム・同程旅行によると、大規模なイベント開催時、会場周辺のホテル価格は平均40%上昇するという。
4.「チケット経済」が都市を潤す
専門家は、映画チケットや試合・コンサートの半券が都市消費を引き出す「チケット経済」に注目する。従来の名所観光に比べ、「イベント+旅行」の消費は宿泊・飲食・交通・グッズ購入など多方面に広がり、地域経済に幅広い効果をもたらす。
テーマ追求型旅行の広がりは、消費者が「質」や「個性化体験」を求める新たな傾向を示している。今後も文化と観光の融合が進むことで、多彩な観光スタイルが生まれ、都市消費に新たな活力を注ぎ込むとみられる。
(中国経済新聞)