中国最大の家具小売企業「居然之家」董事長が転落死

2025/07/28 19:15

7月27日午前、中国最大の家具販売チェーン「居然之家(居然智家新零售グループ)」の董事長(会長)を務めていた汪林朋氏が、北京市内で転落死したことが確認された。57才でした。現地関係者によれば、自宅からの転落と見られている。

汪氏はそのわずか4日前に、武漢市江漢区監察委員会による留置と立件調査を経て、3か月の拘束から解放されたばかりだった。

中国商業界では、汪氏のキャリアは「エリート官僚からの華麗な転身」と称され、経済界において大きな注目を集めていた。

汪氏は1990年に北京工商大学を卒業後、国家商業部(現・商務部)の財会司に就職。安定した国家公務員の道を歩み始めたが、1994年には中商企業グループに転職。財務担当副総経理まで昇進し、若くして実権を握る存在となった。

1999年、汪氏が30歳のとき、運命が大きく動き出す。中商グループが経営難に陥っていた民間家具販売企業「居然之家」を買収する際、その中心的な交渉を担ったのが彼であった。買収当時の居然之家は、わずか1店舗・約3万平方メートルの営業面積しかない地方の小企業であった。

しかし、その小さな企業が、彼の手腕によって後のビジネス帝国へと変貌を遂げていく。

2000年代初頭、中国全土で国有企業改革が進む中、汪氏は居然之家の経営改革に着手。2001年には個人出資として455.89万元(当時の約6800万円)を投じ、8.99%の株式を取得。以後、積極的な経営改革を進め、家電販売業界で初となる「先行賠償制度(不良商品は事前に店舗が賠償する制度)」などを導入。全国規模のチェーン展開を実現し、知名度を飛躍的に高めた。

2005年時点で店舗数は5店に増加、年商は各店舗で10億元(約210億円)を超え、急成長を遂げた。

さらに2012年には早期にデジタル化戦略を導入し、ECプラットフォーム「居然設計家」を立ち上げるなど、オンラインとオフラインの融合を推進。家具販売業の「二次貸し」モデルから「総合運営」モデルへと転換を図った。

2015年には株式を買い増しし、居然之家の実質的な支配権を取得。その後、全国チェーンとして年商100億元を超える規模に成長した。

汪氏の最大の功績のひとつは、2018年に掲げた「家居新小売(ニューリテール)」の概念をもとに、アリババなどの大手企業から131億元の出資を獲得し、企業評価額をわずか1年で40億元から360億元にまで引き上げたことだ。

さらに翌年、汪氏は「蛇が象を呑む」とも評された大胆な手法で、武漢中商(上場企業)を借殻(裏口上場)してA株市場への上場を実現。上場時の評価額は356.5億元に達し、自身の資産も一時368億元(約7611億円)とされ、2019年胡潤百富榜(中国版フォーブス)で湖北省のトップ富豪に名を連ねた。

しかし、当時の武漢中商の時価総額はわずか15億元(約310億円)であり、この取引をめぐっては「国有資産流出」の疑念が一部で噴出。世論の批判にさらされる場面もあった。

汪林朋氏の突然の死去により、中国家具業界では多くの関係者が「大きな損失」「驚きと深い哀悼」との声を上げており、同氏が業界にもたらした先進的な経営理念と改革精神を高く評価している。

(中国経済新聞)