3月5日に行われた中国の全人代開幕式で、国務院の李強総理が政府活動報告の中で2025年の主な目標数値を発表した。国内総生産(GDP)成長率は5%前後、都市部の調査失業率は5.5%前後、都市部の新規雇用数は1200万人以上、消費者物価指数はプラス2%前後とし、さらに個人所得の伸びと経済成長を同レベルとし、国際収支はほぼ平衡状態へ、食料の生産量7億トン前後、GDPあたりのエネルギー消費量を約3%削減、生態環境の質を引き続き改善、といった内容である。
これらの目標について李強総理は、「国内外の情勢や各方面の要素を総合的に勘案し、必要性と可能性を両立させたもの」と述べた。経済成長率5%前後とは、雇用の安定やリスクの予防、国民生活のためである上、成長の潜在力や有利な条件を支えるものであるほか、中長期的な取り組みと結び付けたもので、困難を前に立ち向かっていく姿勢が強調されている。また都市部の失業率5.5%前後とは、雇用者の数と構造的なアンマッチが際立っている中で雇用の安定に力を入れるべきとの考えの表れである。
「GDP成長率5%前後」は前年目標と同じであり、中国国家統計局の最新データでは2024年のGDP成長率は目標通りの5%となっている。ただし2025年もこの通りとなるか、心配感を示す経済学者も存在する。
一番の不安材料はアメリカによる追加関税である。中国は25%の関税をかけられたら輸出は2024年より減少し、工場を東南アジアなどへシフトする企業も増えてくるだろう。さらに国内でも民間企業の設備投資が減り、外国企業の撤退も一段と加速するはずだ。
それと、中国政府が一連の民間企業支援策を打ち出したことで、多くの企業人が期待感を見出せるようになるか。また、同じく政府による「下取り」の支援策で、お金をはたいて自動車や家電製品を買い替える動きが広まるだろうか。
厳しい事実を言うと、中国政府は2024年にも経済の活性化へ一連の有力な策や措置を講じたけれど、効果ははかばかしくなく、経済の伸び悩み傾向に歯止めがかからなかった。中国統計局が3月9日に発表したデータでは、2月の消費者物価指数(CPI)は-0.7%で去年2月以来の前年割れとなったほか、生産者物価指数(PPI)も同じく-2.2%だった。
今年の政府活動報告では、「消費」という言葉が32回も出てきた。経済成長を果たす上で大切なものであることが見て取れる。
政府活動報告の作成メンバーの1人である国務院研究室の陳昌盛副主任は、中国政府が今年実行する十件の任務の中で、優先課題は「消費の刺激、投資効果の引き上げ、国内需要の全面的拡大」であり、「確かに必要だ」と指摘している。
2月は消費者物価指数が市場の予想を上回る落ち込みで、デフレ圧力が続いていることが分かる。
その主な要因は食品価格の下落のほか、自動車業界の「過度な競争」である。エンジン車は5%、新エネ車は6%も値段が下がり、消費指数にもそれが現れている上、生産者物価指数も下落幅は一服したが需要が伸びない様子が見えている。
中国鉄鋼工業協会が今年1月20日に開催した第6回会員大会第7回会議で、姚林会長は「2024年、鉄鋼各社の利益総額は前年比50.3%減の429億元、販売利益率は0.71%にとどまった」と述べた。
姚会長は、「国内需要が伸びず、特に不動産市場の大きな改革などの影響で、粗鋼の消費量はピークだった2020年の10.48億トンから4年連続で落ち込み、2024年は8.92億トンだった」と言う。2025年も引き続き需要が減り、鉄鋼市場は供給過多となって各社とも経営がかなり苦しくなる見込みである。
政府活動報告では消費指数の目標について、これまでの3%からほぼ20年ぶり低水準となる2%と定めた。経済のさらなる疲弊を意識し、「競争」状態に歯止めをかけたいという中国政府の気持ちがうかがえる。
長引く消費の低迷や経済の下押し圧力が高まっている上、社会問題も際立っている。今回の全人代では、若者世代における扶養の問題や就職差別が大きく取り上げられた。
全国政治協商委員の金李氏は、老人扶養控除額を引き上げるよう主張した上、配偶者の親も扶養対象とするように、と言った。中国は多くの世帯が祖父母四人、親二人、子供一人という「四・二・一家族」となっており、初期の一人っ子世代が多くの被扶養者を抱えているので支援が必要というのである。
同じく全人大に参加した蒙媛氏は、就職時の年齢差別を法的に禁じるべきと主張した。「企業による年齢制限の禁止」がブログでアクセス数トップになり、閲覧数は1.1億回となっている。
この主張は、昨今の雇用情勢における「35歳の壁」や「既婚・子なし女性は不可」といった暗黙の条件が広まっている上、これによる「怒り」が噴き出ていることを示すものである。
また、採用条件を「新卒者限定」とし、大卒なら27歳以下、大学院卒なら30歳以下と定めるケースもあり、公平でやさしい雇用環境を確保することが課題となっている。
中国は今、雇用情勢が大変厳しい。人力資源・社会保障省の王暁萍大臣は、「今年の大卒者は1222万人の見込みで、去年を43万人上回りまたも過去最高となる」と述べている。
王大臣は、「今年は雇用の安定や拡大が重大な任務で、大卒者の問題のほか、貧困脱却の出稼ぎ者の数も3000万人以上としなければならない上、農村から移動した大量の労働者の雇用も確保しなくてはいけない」と語った。雇用の確保が厳しい上にその中身の問題も際立っているという。
大学生の「就職難」については、経済構造の大幅な改革に起因するものである。安物の製造業からハイテクへのシフトであるが、こうした変化は時間がかかる。
中国は現在、若者が工場での勤務を嫌がる一方で、経済成長の鈍化や過度な規制などにより金融業やサービス業など「ホワイトカラー」の求人数が希望者数よりずっと少ない、といった状況である。これにより「樹脂製の靴やニット製品を作るような従来の工場が人手不足の一方、大卒の若者がホワイトカラーになれない」となっている。
李強総理は政府活動報告で、経済の成長や地方政府の債務問題解消、一連の社会問題の悪化防止へ、予算を以下の三点につぎ込むと述べた。
一、GDP比の赤字率を2024年より1ポイント引き上げて4%とする。赤字額は1.6兆元から5.66兆元に増える。
二、長期型の特別国債発行額を3000億元増やして1.3兆元とする。この3000億元分は消耗品の下取り補助に当てるもので、2024年の2倍の額であり、力の入れ具合が見て取れる。
三、地方特別債の額を2024年より5000億元増やして4.4兆元とする。用途は建設工事、土地の買い上げや余剰分譲住宅の購入、地方政府における企業への延滞金支払いなどである。 李強総理は政府活動報告で、「習近平同志を核心とする共産党中央の力強い指導のもと、国を挙げて難関に挑む。中国には越えられない難関はない」と強調している。
(中国経済新聞)