中国一の富豪、44歳の通販創業者黄崢氏のあゆみ

2024/08/29 07:30

中国は富豪No.1が入れ替わった。中国のEコマースサイト「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」の創業者でCEOである44歳の黄崢(コリン・ファン)氏が国内長者番付のトップに立った。資産額は486億ドル(約7.16兆円)で、2021年4月から首位を守っていた飲料水最大手「農夫山泉」の創業者・鐘睒睒氏(474億ドル、約6.98兆円)を逆転している。

鐘氏はしばらくトップの座を維持していたが、このところ会社がトラブルに巻き込まれて悪い情報が伝わり、イメージも株価も随分と落ち込んだ。また競争の激化や消費者ニーズの絶え間ない変化を受け、業界トップの座も危うくなってきていることから、鐘氏の資産額も後退してしまった。

拼多多は2015年設立した。からわずか数年でありながら、独自のビジネスモデルやマーケット戦略で、強豪ひしめく通販業界で一歩抜け出している。

こうした結果は、「SNS+通販」という新たなモデルが功を奏したものである。合算購入の導入で客同士のやり取りやシェアを招き、顧客獲得へのコストを軽減したほか、ユーザー基盤を急激に拡大した。

拼多多は、ユーザーの規模についても急速に増加している。

年間アクティブユーザー数は2020年末の時点で7.884億人、ジャック・マー氏のアリババを抜き中国最大の通販サイトとなった。2023年は前年比10%増の8.69億人となっている。

拼多多が急成長したことで、中国の通販業界にうねりが訪れたのだ。

会社の業績が見事である上、創業者である黄氏の経歴も同じようにレジェンドであることが見て取れる。

黄氏は1980年に浙江省杭州で生まれ、小学生の時から大きな夢を抱き、将来の仕事について書いた作文のタイトルは「科学者になりたい」だった。

黄氏は学業成績もよく、クラスの優等生であったほか、教師に勧められて数学オリンピックに出場し、一等賞になった。地元で一番の外国語学校への進学を薦められたものの、黄氏は語学が苦手であった。教師から将来を嘱望されてはいたが、かねてからコンピューターを学びたかったゆえに希望された進路は望まなかった。

黄氏は、浙江大学の竺可楨学院でコンピューターを専攻し、後にアメリカのウィスコンシン大学マディソン校に進学、修士号を取得した。

卒業後は、当時力をつけ始めていたGoogleに入社し、中国法人の設立にも加わった。

2007年にGoogleを退社し起業への道を歩み始め、携帯電話での通販、通販代理店、ゲーム会社を立ち上げた。こうした経歴から、IT業界で貴重な経験を積み重ねたほか、ビジネスへの嗅覚やリーダーシップが養われていった。

2014年、黄氏は自宅療養していた間に、スマホでのSNSの将来性を察知し、これが拼多多誕生へのインスピレーションとなった。2015年には「拼好貨」を立ち上げ、後に拼多多に発展させ、SNS通販という新たなモデルを作り上げた。

黄氏の鋭い市場洞察力や確かな実行力を武器に、拼多多は通販業界の成長株になっていった。

黄氏は2020年7月1日、40歳の若さでCEOを退任し、現役引退を発表した。また、株式の14%にあたる1000億元(約2兆円)を手放してその半分近くを繁星慈善基金に寄付したほか、残りの7.74%分を拼多多のパートナー各社に分け与えた。

これにより、黄氏の拼多多への持株率は43.4%から29.4%に減額した。しかしCEOや会長を退いた後も、独自のアングルやアイデアで自社だけでなく通販業界全体に影響を与えている。

黄氏の純資産額は、2021 年初めにピークの715 億ドル(約10万5727億円)となった。

また、テクノロジー大手としては3年ぶりの富豪NO.1 に登り詰めた。2020 年にCEOを退任、2021 には取締役会を離脱して、その後はほとんど公の場に姿を見せなくなっている。

拼多多は、最盛期は過ぎたものの安値を売り物に引き続き急成長しており、2024年第1四半期は売上高が前年比130.66%増の868.1億元(約1.78兆円)、純利益が前年比約246%増の280億元(約5744億円)であった。

また拼多多は、「海外版」であるTemuが、売上増に貢献している。2022年9月にアメリカのアプリストアランキングで一気に首位に上り詰め、インフレに苦しむ中でブランド性のない安い品を求めているアメリカ人をターゲットに、中国から商品をダイレクト発送している。

データを見ると、Temuは今年上半期の売上高が200億ドル(約2.95兆円)で、うち第2四半期のGMVはアメリカ市場全体の45%に迫る約120億ドル(約1.77兆円)であった。

拼多多はまた、フォーチュン誌が先ごろ発表した「フォーチュン・グローバル500」で、売上高349.81億ドル(約5.15兆円)で442位と初のランクインを果たした。フォーチュン誌はこれについて、新興の通販サイトが地方での需要を十分に把握してたちまち市場の一角を占めるに至った、と評価している。

IT業界は現在、新たな再編の時期を迎えている。拼多多は時価総額が京東を上回り、さらには通販最大手だったアリババをも抜いた。業績のすさまじい成長による結果である。

ファン氏に代表される中国のテクノロジー企業関係者が様々な富豪ランキングに名を連ねており、「胡潤世界長者番付」では上位100人のうち中国の実業家やその一族である4人がランクインしている。まずファン氏が24位、ネットサービス大手「テンセント」の創業者であるポニー・マー氏が2500億元(約5.13兆円)で36位、大手ネット企業「ネットイース」の創業者である丁磊氏が2100億元(約4.31兆円)で43位、アリババ系の「ジャックマー氏の同族」が1500億元(約3.08兆円)で82位となっている。

今年44歳という若き黄氏が長者ランキングトップ、これは中国で実業家が続々と誕生し、多元化していることの表れである。黄氏は若者世代の実業家の代表であり、本人の努力やベンチャー精神だけでなく、時代の流れを正確につかみ取って市場のトレンドを鋭く観察した結果が成功につながったと言える。

(中国経済新聞)