中国で味千ラーメンが閉店ラッシュ(その2)

2024/06/25 17:30

輝かしい結果を残した潘氏は、2007年から2010年まで4年連続で「飲食界長者番付」のトップに座り、「ラーメン女王」とも言われ、5年後には店舗数1000店を目指すと語った。

ところが、これは計画倒れに終わってしまい、味千の業績は一気に坂を下って行った。

潘氏はその時、命取りとなってしまったのは人ではなく、自慢の種としていたスープであったことに、まるで気づいていなかった。

味千ラーメン一は「50年の煮込み豚骨スープ」を栄養満点だとPRし、一番の宣伝材料としていた。値段は中国のラーメンの2倍だったが、それでも人気は衰えていなかった。

それに、「日本式ラーメン」と銘打っていた故、食べながら「高級」な味覚だなどという感情も生まれていった。

ところが2011年7月23日、味千ラーメンのスープは豚骨などではなく、実際には粉末とつゆの素で作られたものに過ぎない、ということが明るみになってしまった。

これに対し、たちまち批判の嵐が吹き荒れた。

味千は当初はこの報道を否定し、スープのサンプルにはコラーゲンやカルシウムがふんだんに含まれているという中国農業大学の分析結果をメディアに示した。

しかし大学側はこの主張に対し、「分析をした事実はない」という強い非難の声明を発表した。

さらにその直後、この分析結果は6000元を出して買ったものだという情報がネットで流れた。

続いて広州の薬品監督局が、「味千ラーメンのスープは粉末の袋を混ぜたもの」と発表した。複数の動かぬ証拠に押された味千は、ついにそれが事実であることを認め、虚假の宣伝をしたとして当局に罰金20万元を収めた。

ただし、味千はその後も「煮込み豚骨スープ」とのPRを続けた。

この騒ぎは後に「とんこつ疑惑」などと呼ばれた。

味千はこれで、虎の子を失ったばかりか「でまかせだらけ」のサギだなどと言われ、店舗の売上も真っ逆さまに落ちた。株価は40%以上の値下がりで時価総額が76.3億元ダウン、過去にない厳しい状況に置かれた。

味千は事態を挽回すべく、事業を店舗の経営から投資へシフトしていった。

ところがその道は、ラーメンのように順調ではなかった。

2015年、味千は検索大手「バイドゥ」のデリバリー子会社に出資し、業績も上向きとなった。波に乗ったと見た潘氏は都合計7000万ドルを投資したが、このデリバリー事業は長続きしなかった。

バイドゥはデリバリー業界の鮮烈な争いに敗れ、半年後に同業の「餓了么」に買収されてしまった。

これにより味千は5億元近い損失を被り、潘氏も二度とデリバリーは手掛けないと公言した。

この波が収まらぬうちに、今度は社内でスキャンダルが発覚した。

財務部門のトップである劉家豪氏が180枚の小切手を、書いた後に消せるボールペンで改ざんし、7年間かけて2652万香港ドルを横領したのである。

世間の批判に遭い、投資も痛手を被り、経営幹部に足を引っ張られるという一連のトラブルに見舞われた味千は、打開策を練らなければならなかった。

味千は結局、元の商品路線に戻ることにした。いいものがないと売れ行きも出ない、ということである。

その通りではあるが、その路線はコースアウトしてしまったようである。

味千ラーメンは周知の通り、ラーメンが看板商品でサービスは影の商品であり、この二つが揃ってこそ客足を呼べるのだが、味千はこれに気づかなかった。

「商品路線に戻る」とはラーメンの改良でもサービスの改良でもなく、チャーハンやギョーザ、から揚げなど、むやみに新商品を出すことだった。これらがPRの中心になっていったのである。

日本式ラーメンで知られるレストランは、チャーハンやギョーザで客足を招くことはできまい。

また更に、味千は料理が遅い、サービスが悪いなどといった問題も噴出した。今回の商品回帰という取り組みは何とも形容しがたく、逆に悪評を生んでしまい、ネットでは「策士、策に溺れる」などと見られた。

味千ラーメンは、頂点を極めた一方で谷底に落ちるなど、波乱万丈の歩みである。「5年間で1000店舗」との計画はもはや不可能で、店舗数はどんどん減っている。

2022年は161店が、2023年は35店が閉店し、飲食業界が息を吹き返している2024年に入っても閉店が相次いでいる。今年5月30日現在、残された店舗数は560店である。

味千はまた、運営効率アップに向けて店舗、広告宣伝費、工場管理などのコストもさらに削減している。

頑張ってはいるが、こうした努力がどこまで続くだろうか。

(終わり)

(中国経済新聞)