中国経済は幸先好調ながら先行き不透明感も 内需創出策の効果が今後の景気動向を左右

2024/06/7 07:30

■ 純輸出が成長率を押し上げるも、主要指標はまだら模様で力強さを欠く結果

中国の2024年1~3月期の実質GDP成長率は前年比+5.3%と、市場予想(+4.6%)を大きく上回る伸びを記録した(図表 1)。政府の産業振興策や財政出動を背景に製造業やインフラ部門の投資が堅調だった(それぞれ同+9.9%、+6.5%)ほか、輸出が6四半期ぶりのプラス(同+1.5%、ドル建て)に転じて貿易黒字も拡大したことが成長率を押し上げた。中国政府が 3月に開催された全国人民代表大会において設定した成長率目標「+5.0%前後」の達成に向け、幸先の良いスタートを切った形である。

ただ、主要経済指標はまだら模様で力強さを欠き、景気回復の持続性に不透明感が残るものであった(図表 2)。1~3 月の小売売上高は同+4.7%となったが、このうち財消費は同+4.0%にとどまり、需要の鈍さが目立っている。

一方、国家統計局はサービス小売が同+10.0%伸びたとしており、これが成長率の押し上げに寄与した可能性がある。工業生産は同+6.1%と高い伸びで、特に新エネルギー車、太陽光電池、集積回路(IC)の生産が堅調であった。しかし、3 月単月では同+4.5%まで減速し、前月比で▲0.08%のマイナスに陥っており、2023年末以来の強さに陰りが見られる。固定資産投資は上述のとおり製造業やインフラが堅調だったものの、不動産部門が足を引っ張ったことから、全体では同+4.5%と成長率を下回る伸びにとどまった。

景気の先行きに不透明感が残るのは、1~3 月期の名目 GDP 成長率が同+4.2%にとどまり、名目GDPを実質GDPで割って求められるGDPデフレーターが4四半期連続のマイナスとなったからでもある(図表 3)。中国経済はデフレ圧力に直面しており、3月の消費者物価指数(CPI)は同+0.1%、このうち変動の大きい食品・エネルギーを除くコアCPI で見ても同+0.6%と、低インフレが続いている。とりわけ、市場競争が激化している通信機器や輸送機器など耐久消費財の価格が大きく下がっていることは、デフレ傾向を象徴するものといえ、需要不足が長期化すれば実際にデフレに陥るリスクも高まるであろう(図表 4)。

不動産市場については、不況からの出口がいまだ見えない状況である。1~3 月の不動産販売面積は同▲19.4%まで落ち込んだ。中国人民銀行は2月、住宅ローンの参考指標となる最優遇貸出金利(LPR)5年物の引き下げに踏み切ったものの、購入層の反応は薄く、需要回復の兆しが見えない。新築住宅価格(70 都市平均)は前月比▲0.3%、中古住宅価格は同▲0.5%と、前月からマイナス幅が小幅に縮小しているものの、底値を探る動きが続いている(次頁図表 5)。

1~3 月の不動産開発投資も同▲9.5%と、減少トレンドは変わっておらず、在庫調整が続いていることから当面の回復は見込めそうもない。不況長期化の最大の原因ともいえる「保交楼(予約販売済み未完成物件の引き渡し)」問題については、当局が融資適格と判断した不動産開発プロジェクトをまとめた「ホワイトリスト」に基づく資金融通スキームが始動しているが、銀行貸出を大きく押し上げるには至っていない(表 6)。商業銀行は不良債権化リスクから不動産ディベロッパー向けの貸出になお慎重な姿勢を崩していないことがうかがえる。

■ 景気てこ入れ効果は、設備投資へは期待できるが、消費財へは限定的に

2024 年の景気動向を占う上で注目されるのは、中国政府が推し進めている大型設備の更新と消費財の買い替えの促進策である。国務院は3月、『大規模設備更新および消費品買い替え推進行動方案』(以下、『行動方案』)を公布し、この政策を内需創出の柱とする構えを示した。

『行動方案』は設備更新に関して、工業、農業、建築、交通、教育、文化・旅行、医療などの設備投資を 2027 年までに 2023 年対比で 25%以上増加させる目標を掲げた。

国家発展改革委員会の鄭柵潔(Zheng Shanjie)主任は、工業や農業など重点分野における2023年の設備投資規模は約4.9兆元に達しており、「質の高い発展」の推進に伴って設備更新需要が拡大し続けていることから、今後、設備更新だけで中国の固定資産投資の1割に当たる年間5兆元以上の市場規模が見込めると強調している。

『行動方案』は、設備更新を支援するために中央政府予算内投資の勘定(2024 年は7,000 億元)からも資金を拠出するとしている。さらに、中国人民銀行は4月、イノベーションと技術改造、設備更新を後押しするため5,000億元の再貸出枠を設定すると発表した。政策銀行や大手国有銀行など21行に対し金利1.75%、期間1年の資金供給を行うもので、各銀行に設備投資への貸出増を促す狙いがある。

消費財の買い替え(以旧換新)に関しては、自動車、家電、リノベーションの3分野で買い替え促進を図る方針を示し、自動車のリサイクル量を 2027 年までに2023年対比で倍増させ、中古車の取引量を同 45%、家電リサイクル量を同 30%それぞれ増加させる目標を掲げた。鄭氏は、2023年末時点で中国の自動車保有台数は3億3,600万台に達し、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど主要家電の保有量は 30 億台を超えていると指摘し、自動車と家電の買い替えだけで1兆元を超える規模の市場を創出できる可能性があると強調している。中国政府は2008年の金融危機以降、農村への耐久消費財の普及促進(「家電下郷」や「汽車下郷」)による新規需要の開拓に注力してきたが、普及率が一定の水準に達した(図表 7)ことから、近年は省エネ・電動化やスマート化を促す思惑もあって買い替え需要の掘り起こしを強めている。

『行動方案』を受けて、商務部は自動車の買い替えや自動車・家電リサイクルにおける中央財政からの資金拠出を示唆しているが、より実効性のある施策としては、財政に余裕のある一部の地方政府が耐久消費財の買い替えに補助金を出していることや、中国人民銀行が4 月に自動車ローンの規制を緩和したことが挙げられる。後者は、自家用車のローン頭金比率を金融機関が自主的に設定できるようにすることで、消費者がローンを借り入れやすい環境を整備したものである。さらに、一部の都市では不動産の在庫圧縮と市場テコ入れを狙って、『行動方案』には含まれていない住宅の買い替えキャンペーンも開始した。

『行動方案』に基づく政策措置を受けて、製造業の設備投資は今後、「科学技術の自立自強」に向けた産業振興策やハイテク分野などを重点支援するための超長期特別国債1兆元の発行といった後押しもあり、堅調に推移することが見込まれる。一方、消費財の買い替えについては、これまでの同様の措置でも目立った効果は出ていないこと、消費者マインド低迷による家計の節約志向が続いていること、財政的な裏付けが弱いことなどから、その政策効果は限定的なものにとどまるとみられる。

[参考文献]

  •  みずほリサーチ&テクノロジーズ調査本部(2024)「2024・2025年度 内外経済見通

し ~世界経済はソフトランディングも その後の回復ペースは緩慢でリスクは残存

~」(2月27日)

  •  月岡直樹(2024a)「容易ではない「+5.0%前後」の達成 ~中国が全人代を開催、成

長目標は前年同水準に~」Mizuho RT EXPRESS(3月11日)

  •  月岡直樹(2024b)「デフレ圧力に直面する中国経済 ~デフレ回避の見通しだが、需

要不足が続けば要注意~」Mizuho RT EXPRESS(2月14日)

(文: 月岡直樹)

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みずほリサーチ&テクノロジー 調査部アジア調査チーム

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