2026年の幕開けとともに、海外発のAIアシスタント「Clawdbot」が中国国内でも急速に注目を集めている。開発者コミュニティを中心に爆発的に拡散し、テンセントクラウドやアリババクラウドといった大手クラウド事業者が相次いでワンクリック導入可能なクラウドサービスとして提供を開始した。
1月28日、テンセントクラウドとアリババクラウドはそれぞれ、Clawdbotの簡易デプロイ環境および関連クラウドサービスの提供を正式に発表。これに先立ち、UCloud(優刻得)もすでに対応を開始しており、同社のアーキテクチャ技術センター総監・劉華氏は「ユーザー数は急増しており、ここ数日で問い合わせが殺到している」と語っている。

“オンライン版ジャービス”と称される理由
Clawdbotは、メール整理、スケジュール管理、ファイル操作、コード実行、さらには航空券のチェックインまでこなす自律型AIエージェントだ。WhatsApp、Telegram、企業向けチャットツールなどと連携し、ユーザーは自然言語で指示するだけで、AIが実際にデバイス上の操作を実行する。
従来の「会話して終わるAI」とは異なり、Clawdbotは記憶を持ち、能動的に行動し、ツール(スキル)を追加・交換できる点が最大の特徴とされる。GitHub上では公開から数日でスター数が8万を突破し、「一夜にしてバズったAIプロジェクト」と評されている。
Mac miniブームまで引き起こす影響力
Clawdbotは「ローカル実行」を設計思想としており、OSやファイル、アプリケーション、チャット履歴などへ深くアクセスできる。そのため、プライバシーや安全性を考慮し、専用のMac miniを24時間稼働させるユーザーも少なくない。GoogleのAIプロダクト責任者であるローガン・キルパトリック氏も、その一人だという。
一方、Mac miniの購入は一般ユーザーにとって高コストであることから、クラウド上での運用需要が急速に高まり、これが中国のクラウド各社が素早く対応した背景となっている。
国内向け最適化と“実用性”への評価
当初、ClawdbotはTelegramやWhatsAppといった海外向けチャネルのみ対応していたが、UCloudは企業微信(WeCom)と連携する独自ルートを短期間で開発。これにより、中国国内ユーザーも日常業務で「自分専用のAI秘書」を使えるようになった。
劉華氏はClawdbotについて、「本当に“手”と“脳”を持つエージェント。指示すれば実際に仕事を片付けてくれる点が、従来のAIとは決定的に違う」と評価する。
例えば、外出先からチャットで「デスクトップ上のPPTをPDFに変換して顧客に送信して」と指示すれば、AIが自動で処理を完了させる。
改名騒動とセキュリティへの懸念
急成長の一方で、問題も浮上している。1月27日、Clawdbotは「Moltbot」への改名を発表。Anthropic社から、同社の大規模言語モデル「Claude」と名称が類似しているとして商標侵害を指摘されたためだ。開発者のピーター・スタインバーガー氏はSNS上で「強制的な改名だった」と無念さをにじませた。

さらに深刻なのがプライバシーとセキュリティの問題である。Clawdbotは高いシステム権限を必要とするため、設定不備やプロンプトインジェクション攻撃によって、メールや認証情報、GitHub組織のデータが一括で流出するリスクが指摘されている。
特に、知識の少ないユーザーがVPS上に無防備にデプロイするケースが増えれば、大規模な情報漏洩につながりかねない。
高コストという現実的な壁
もう一つの課題は運用コストだ。海外ユーザーの中には「1日で230ドル稼いだが、API利用料が2820ドルかかった」と不満を漏らす声もある。長期記憶を維持するため、過去のやり取りをすべてコンテキストに含める設計が、トークン消費を爆発的に増やしている。
劉華氏は「エージェント時代では、256Kコンテキストですら足りなくなる。コストと性能の最適化は、今後の大きな技術課題だ」と説明する。
大企業が作れないからこそ生まれた存在
多くの開発者は、Clawdbotが「人々が長年期待していたが、大手テック企業からは提供されなかったAIアシスタント」だと評価する。
責任問題や商業モデル、リスク管理を重視する大企業には、このような自由度が高く、制御不能な個人向けエージェントを世に出すことは難しい。
Clawdbot(Moltbot)は、まだ一部の技術愛好家向けの実験的存在に過ぎない。しかし、“会話AI”から“実行するAI”への進化を明確に示した点で、人とAIの関係性を大きく前進させたことは間違いない。
普及への道のりには、安全性、コスト、エコシステム整備という高いハードルが立ちはだかるが、その先にある「ジャービス的未来」は、すでに現実の輪郭を帯び始めている。
(中国経済新聞)
