国内需要の低迷や生産過剰問題が深刻化しつつある中国で、市場の救済に向けて「下取り政策」が打ち出された。
これは今年3月の全人代=全国人民代表大会で、李強総理の政府活動報告で発表されたものである。政府が適度な補助金を与えて企業の設備更新や国民の日用品の更新を促し、消費を刺激して市場回復をもたらし、製造業の業績悪化を防ぐことが狙いである。
この「下取り政策」は決して新たな手段ではなく、リーマンショックの後の2009年に、消費を刺激するため補助金の活用による自動車や家電の下取りといったアイデアを実行していた。これにより自動車や家電が農村部に普及し、消費を拡大する仕組みとなって、マクロコントロールの主要な手段となったのである。
そこで、今回も各地方で、政府の方針に沿った取り組みが進んでいる。
まず住宅について、各都市で分譲物件の「下取り政策」が打ち出された。不動産業における「売却即購入」というニーズを刺激し、中古物件の市場を活性化し新築の販売も増やすことが狙いである。
河南省鄭州市は4月1日、2024年に中古住宅を1万件「下取り」する、との計画を発表した。これに向けて、物件情報や住み換え用の新築住宅の情報を集めるため、市全域の情報共有システムを作り上げた。
計画の達成に向け、国有企業子会社の鄭州都市発展集団が各物件を購入する形で、市の中心部で中古住宅5000件を引き取り、この分の代金を、購入希望の新築物件を建設している開発業者に振り込む。また鄭州市は、残りの5000件の「下取り」について、購入者、仲介会社、不動産会社による「三者協議」という形を通じて完成させたいとしている。
江蘇省無錫市は4月2日、現地の国有企業「梁渓城発集団」が市中の中古物件を買い取り、その売り主に自社の新築住宅を売るという引き換え策を発表した。初回の「下取り」枠は200人としている。
また同じく4月2日、江蘇省海安市も2024年に100件の「下取り」を実行すると発表した。この日には9件の新築マンションが名乗りを上げ、購入申込者の数は400組を超え、まずは15件が引き渡された。
こうした方策は効果がまだ定かでなく、特に三、四線都市では現段階で新築物件がかなりだぶついており、数少ない中古物件をどのように活用するかに関心が寄せられる。
中国指数研究院の市場研究総監である陳文静氏は、「下取り政策」について、「とりあえずは新旧の物件を動かすことで不動産市場の活性化が望める。今後は導入する都市が増え、住み替え需要が掘り起こされそうだ」と指摘している。
だたし、この「下取り政策」の普及に際し、その後の中古物件の消化問題を心配する声も出ている。資産の価値が薄い物件を買い取るとリスクとなってしまい、値落ちを防ぐ策を講じなくてはならない。
次に自動車について、このところ上海市、山東省、山西省、広東省、湖南省などが自動車の「下取り」を支援する策を相次ぎ発表している。
上海市は4月9日、自動車の買い替え消費の刺激に向けて新旧車両の「下取り」へ補助金を支給すると定めた「2024年新旧自動車『下取り』補助金実施細則」を発表した。個人を対象に、条件を満たした上で車購入時に2800元の一時金を支給するという。
中国財政学会業績管理専門員会の副主任である張依群氏は、「証券日報」の取材に対し、「近代工業の代表的存在である自動車は今、新旧交代の時期を迎えており、『下取り』の重点対象とすることは産業の成長につながっていく。また、消費の『主力4品目』 のトップであり、明らかに経済成長を招く力を持っている」と述べている。
中信証券のチーフエコノミストである明明氏も、同じく「証券日報」の取材で、「自動車の『下取り政策』実施は、様々な面から市場を活性化させて購入を促すことが狙いだ」と述べた。旧型車の廃棄が進んで産業チェーンの全面的な発展がもたらされるほか、特に環境配慮型の新車の購入が進むことになり、業界の技術革新や構造の改善につながるものという。
中国乗用車連合会が4月9日に発表した市場データを見ると、2024年第1四半期は予想通りの「好スタート」を切った。3月1日~31日の乗用車の販売台数は前年同期比6.0%増、前月比52.8%増の168.7万台で、1月~3月の累計販売台数は前年同期比13.1%増の482.9万台であった。
明明氏は、「『下取り』政策は、こうした追い風に乗って購入意欲を刺激し、潜在力をさらに掘り起こすことになりそうだ」と述べている。
ただし、この策に問題点を指摘する声もある。中国消費経済学会の副理事長で、北京工商大学商業経済研究所の所長である洪涛教授は、「まず車の解体やリサイクルについて、産業チェーンやサプライチェーン、収益体制などが整っていない。次に、中古車の査定や評価、取引の流れなどを整備しなくてはならない。さらに、新エネ車に必要な充電スタンドなど、付帯設備やアフターサービスも今は不十分であり、車を買いたいという気持ちに待ったをかけている。また値引き策による販売増は効果が薄い」と述べている。
洪教授は、「自動車の『下取り策』は消費の改善と表裏一体であり、消費を刺激してその中身も格上げし、業界が質の高い成長を果たせるように、所得税の優遇策と結び付け、もっと『買い物』をする理由を与えることが望ましい」と述べる。
4月10日、市場監督管理総局、国家発展改革委員会など7つの政府部門が共同で「基準による設備更新や消費財の下取り拡大への行動案」を発表した。基準をよりどころに秩序ある改善を続け、基準の突合せを強化し制度を一段と整備し、低炭素化、環境保護、安全、リサイクル利用などの基準の制定、修正をするものである。設備の更新や消費財の下取りを支えるため、2025年までに主な国家基準について294項目を修正するという。
これはつまり、政府が新たな設備更新基準を策定することで、強制的に「下取り政策」を実施するということである。
これについて、民間企業の関係者の間では、「中国は今、一番の問題は市場も消費者も将来に希望が持てないことであり、よって民間企業に対し設備の更新や投資の拡大を勧めるのはかなり無理がある。設備購入時の補助金は10%で、残りの90%は自社負担または銀行からの貸付に頼らなくてはならない。これでは企業に負担を強いることにほかならず、どの企業もしり込みしてしまうだろう」との声が出ている。
また一般の消費者にとっても、景気の著しい減退や失業率の増加を前に、自動車や家電製品を自腹で買い替えさせようとしても、必需品でもない限り「使えればいい」などと考えるはずであり、「下取り政策」に食指を動かすとは思えない。
「下取り政策」は確かに中国の消費市場を救う名案ではあるが、どの程度の経済効果がもたらされるかは不透明である。
(中国経済新聞)