中国、2025年の返品件数が80億件超に

2026/03/3 11:05

2025年、中国のECにおける返品・交換件数は年間約80億件に達した。1日あたりに換算すると、2,000万件以上の荷物が「往復」している計算になる。

一見すると、これは品質の低下や不誠実な出店者の増加を示しているようにも思える。だが実態は、むしろ逆だ。商品が悪くなったのではない。消費者の求める水準が、確実に高まっているのである。

スマートフォンひとつで、衣類も靴も化粧品もすぐに購入できる時代。選択肢は無数に広がり、価格比較も一瞬で済む。しかし、いざ「思っていたのと違う」となれば、待ち時間、サイズ確認、返品手続きという一連の手間と心理的負担が生じる。

試着の代わりに“試し買い”が常態化した結果、消費者はもはや「選び間違い」のコストを自ら負担したくないと考えるようになった。返品の多さは、不満の噴出ではなく、「確実性」への強い志向の表れなのである。

いまや消費は「最安値重視」から「確実性重視」へと軸足を移している。購入前の迷いを減らし、購入後の返品・交換も円滑に行える——その一連の体験を安定的に提供できるプラットフォームこそが、長期的に選ばれる存在となる。節約できるのは数十円、数百円ではない。意思決定や試行錯誤にかかる時間と労力そのものだ。

この変化は、小売ビジネスの本質そのものを変えつつある。これから問われるのは価格競争力ではなく、「信頼の厚み」である。一度きりの割引ではなく、「開けば安心して買える」「買っても失敗しない」という感覚こそが、リピート購入を生む。

安さは入口にすぎない。安心こそが持続的な吸引力となる。

この傾向は、会員制モデルで知られるCostcoやSam’s Clubといった実店舗、そしてオンラインの特価市場にも顕著に表れている。中国市場で象徴的な存在が、特価EC大手の唯品会である。

同社の2025年通期純売上高は1,059億元に達した。注目すべきは顧客構成だ。アクティブユーザーは安定的に増加し、最上位会員(SVIP)は980万人に拡大、2桁成長を維持している。この高付加価値会員層がオンライン売上の52%を占める。

1,000万人に満たないロイヤル顧客が売上の半分以上を支えている事実は、単発の“掘り出し物探し”ではなく、継続的なリピート購入が定着していることを示している。

同社が依拠しているのは、単なる低価格戦略ではない。長年にわたりバイヤー制度を強化し、厳選した商品を提供してきた。たとえばAlexander Wang、MAMMUT、MUJIなどの国際ブランドと深く連携し、正規品と競争力のある価格を両立している。

膨大な商品の中から自力で選び抜くのではなく、あらかじめ厳選された商品だけが並ぶ——この仕組み自体が、消費者の意思決定コストを大きく引き下げている。

80億件という返品件数は、中国消費の混乱を示す数字ではない。むしろ、市場が成熟段階に入ったことを物語っている。

価格は依然として重要だ。しかし最終的に選ばれるのは、「失敗しない」という確信を与えてくれるプラットフォームである。低価格は入口にすぎず、信頼こそが終着点である。この構図をどれだけ深く理解できるかが、次の小売競争を左右することになる。

(中国経済新聞)