まもなく幕を閉じる2025年。映画界にとって、この一年はまさに構造転換の連続だった。 技術、資本、観客心理、そして創作の価値観まで――。 ここでは2025年の映画界を象徴する出来事を、順位を付けずに振り返っていきたい。
一、中国アニメの歴史的快挙 『哪吒之魔童闹海(Ne Zha 2: The Devil Child Conquers the Sea)』の衝撃 2025年の世界映画市場で、最も衝撃的な出来事は間違いなく本作の誕生だ。 国内最終興行収入は154.46億元と断トツで年間1位を獲得。

さらに、世界興収は21.99億ドル(猫眼データ)に達し、華語映画として初めて世界年間興収ランキングの頂点に立った。 これは単なるヒット作ではない。 中国アニメーション産業の成熟、そして中国神話IPを“グローバル化”して運営する能力が、国際水準に到達したことを示す象徴的な出来事だった。 映像技術・VFXは、もはや世界最高峰と肩を並べている。

二、世紀の大型買収劇 Netflix vs パラマウント、ワーナー争奪戦
2025年12月5日、Netflixは約827億ドルでワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)を買収すると発表。 これは年間最大のニュースであると同時に、ハリウッド史の転換点でもあった。 しかし事態はさらに激化する。 パラマウント(Paramount)が1084億ドルで敵対的買収を仕掛け、両社がワーナーを巡って正面衝突する構図となった。 現時点ではNetflix優勢と見られるものの、最終的な帰趨は2026年まで持ち越されそうだ。 いずれにせよ、かつて「五大スタジオ」の一角だったワーナーが、独立した映画会社としての姿を失う可能性は高い。 これはハリウッド全体にとって、不可逆的な構造変化を意味している。
三、アニメ映画の圧勝、実写映画の後退
2025年は、間違いなくアニメ映画の年だった。 世界興収2位 『ズートピア2(Zootopia 2)』:13.31億ドル → 中国国内では輸入アニメ史上最高興収を記録 世界興収3位 『リロ&スティッチ(Lilo & Stitch)』(実写×CG) 世界興収4位 『マインクラフト/ザ・ムービー(A Minecraft Movie)』。

一方、実写映画の年間最高は 『ジュラシック・ワールド:リバース(Jurassic World: Rebirth)』の8.65億ドルで、5位にとどまった。 中国国内でも、夏休み公開のアニメ 『浪浪山的小妖怪(The Little Monsters of Langlang Mountain)』がダークホースとなった。

四、オスカー最大の勝者は「インディペンデント映画」 商業大作が興収を席巻する一方で、第97回アカデミー賞は真逆の選択をした。 最優秀作品賞に輝いたのは、ショーン・ベイカー監督の 『アノーラ(Anora)』。 同作は作品賞・監督賞・編集賞・脚本賞の4冠を獲得した。 性産業に生きる人々を描いた小規模な独立映画が、 『デューン 砂の惑星 PART2(Dune: Part Two)』や 『ウィキッド(Wicked)』といった大作を抑えたことは象徴的だ。 中国でも同様の動きが見られた。

金鶏奨は『好東西(Her Story)』に最優秀作品賞を授与。 都市女性の感情や労働、ジェンダーを描いた軽妙な作品が、主流評価の中心に立った。
五、AIがハリウッドに本格侵入
2025年、AIはついに映画界の中心的議題となった。 10月には、生成AIで作られたAI女優ティリー・ノーウッド(Tilly Norwood)がSNSで爆発的な人気を獲得。 大手エージェンシーが接触したことで、俳優組合は強く反発した。

さらに、 『The Sweet Idleness』(伊・アンドレア・イェルヴォリーノ制作) GPTモデルを用いたアニメ長編 『Critterz』 など、AI生成映画の企画が続々と浮上。 故人俳優(マリリン・モンロー、マーロン・ブランドなど)のAI再現も含め、倫理問題が激しく議論された。
六、抗日戦争題材の本格的復活 中国人民抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年。 その節目の年に、抗日題材は“主旋律映画”の枠を超え、興行的成功も収めた。 『南京照相馆(The Nanjing Photo Studio)』 → 興収30億元超、豆瓣8.8点 『731(731)」 → 論争を呼びつつも19.42億元 一方、 『东极岛(Dongji Island)』は野心作ながら3.96億元と振るわなかった。

七、「巨匠+大作」が通用しなくなった年 2025年、多くの名監督が苦戦した。 徐克、陳可辛、管虎、姜文といった“興行保証”の名が、もはや万能ではなくなった。 『封神第二部:戦火西岐(Creation of the Gods II)』も 興収12.38億元と、前作の半分にとどまった。 観客は、 大IP 豪華キャスト 巨大スケール よりも、良質な物語と感情的共鳴を求めるようになったのだ。

八、ハリウッド映画、中国での存在感低下
『ズートピア2』や『アバター3(Avatar 3)』を除けば、 ハリウッド映画の中国市場での影響力は明らかに後退した。 マーベル、DC、 『ミッション:インポッシブル(Mission: Impossible)』、 **『ジュラシック』**シリーズ―― いずれも期待を下回る結果に終わった。 観客は、特効よりも「自分たちの物語」を選び始めている。
九、日本映画の躍進と、韓国映画の苦境 日本では、 『鬼滅の刃 無限城編 第一章 (Demon Slayer: Infinity Castle – Part 1)』 が世界興収7.83億ドル、中国でも6.78億元を記録。 さらに実写映画 『国宝(National Treasure)』が、日本実写映画の歴代最高興収を更新した。

一方、韓国映画界は深刻な不振に陥った。 年間で観客動員1000万人を超える国産映画はゼロ。 最高成績は 『ゾンビの娘(Zombie Daughter)』の563万人にとどまった。

十、別れの年――去りゆく映画人たち 2025年は、あまりにも多くの別れの年でもあった。 デヴィッド・リンチ、 ロバート・レッドフォード、 ジーン・ハックマン、 ダイアン・キートン、 ロブ・ライナー、 ヴァル・キルマー、 仲代達矢、 クラウディア・カルディナーレ、 于洋、徐熙媛、何晴、朱媛媛、許紹雄、馮淬帆……。
星は落ちても、光と影はスクリーンに残り続ける。 2025年。 映画は、確実に次の時代へ踏み出した。
(中国経済新聞)
