中国・清華大学は15日、同大学電子工程系の方璐(ファン・ルー)教授率いる研究チームが、インテリジェントフォトニクス(智能光子)分野で世界初となる「アトメートル(Å=10⁻¹⁰メートル)級」精度を持つスナップショット分光成像チップ「玉衡(ユーヘン)」の開発に成功したと発表した。これは、光子を用いた高精度イメージング測定技術において、中国が新たな段階へと進んだことを意味する成果である。研究結果は英科学誌『Nature(ネイチャー)』にオンライン掲載された。
■「物理的な限界」を超える新しい光学構造
方教授のチームは、インテリジェントフォトニクスの原理に基づき、従来の物理的な分光制約を打破する「再構成可能な計算光学成像アーキテクチャ」を提案。ランダム干渉マスクとニオブ酸リチウム(LiNbO₃)材料の電気光学的再構成特性を組み合わせることで、高次元の光スペクトル変調と高スループット復号を協調的に実現した。これにより、従来はトレードオフ関係にあった分光分解能と成像速度の両立に成功した。

■手のひらサイズで「超高分解能」
完成した「玉衡」チップは約2センチ×2センチ×0.5センチという小型サイズながら、400〜1000ナノメートルの広い波長域に対応。アトメートル級の分光分解能と、1,000万ピクセル規模の空間分解能を同時に実現した。
単一のスナップショットで全スペクトルと全空間情報を同時に取得でき、分光成像の能力を従来の100倍以上に向上させた。これは、長年光学分野で課題とされてきた「分解能と効率の両立」という技術的ジレンマを打ち破る画期的な成果である。
■宇宙観測や人工知能にも応用期待
方教授は、「『玉衡』は分光成像システムにおける分解能・効率・集積度の難題を同時に克服した」と述べ、今後は人工知能、航空・宇宙リモートセンシング、天文観測など幅広い分野での応用が見込まれると説明した。
特に天文分野では、1秒間に約1万個の恒星スペクトルを同時取得できる性能を持ち、従来は数千年かかるとされていた銀河系の全恒星スペクトル観測を、10年以内に完了できる可能性があるという。さらに、マイクロ化設計により人工衛星への搭載も容易で、将来的には人類史上初となる「宇宙全域の光スペクトルマップ」が数年以内に描き出される可能性もある。
中国の光子情報技術が、量子・AI分野に続く次世代戦略技術として世界の注目を集める中、「玉衡」の登場は、国際的な光電子科学の競争地図を塗り替える一歩となりそうだ。
(中国経済新聞)