中国の白酒業界で“降度競争”が静かに広がっている。8月26日、五粮液(ごりょうえき)グループは29度の新商品「五粮液(ごりょうえき)・一见倾心」を発表し、香港出身の人気歌手・鄧紫棋(G.E.M.)をグローバル代言人に起用した。同時期には、舍得酒業も29度の「舍得自在」を8月30日に発売すると発表。さらに、瀘州老窖は28度の「国窖1573」を開発済みと明かし、古井貢酒も26度の「年份原漿・古20」を俳優の陳建斌を起用して市場に投入するなど、低度化の流れは業界全体に広がっている。

■従来の「高度」文化からの転換
中国の白酒は長らく50度前後の高アルコール度数が主流だった。これは原料や製造の特性だけでなく、中国の酒席文化とも深く結びついてきた。高度の白酒は「酔うための酒」として、権力関係や上下関係を映し出す象徴的な存在でもあった。
一方、低度白酒は技術的なハードルが高い。度数を下げると濁りや風味の弱さ、水っぽさが出やすいため、高度な醸造技術やコストのかかる基酒が必要とされる。中国酒業協会の呂咸遜常務理事も「度数を下げても白酒らしい香味を残すには、上質な基酒を使い、厳格な工芸が不可欠だ」と指摘する。
■低度白酒が若年層を狙う理由
背景には市場環境の変化がある。2024年以降、白酒市場は調整局面に入り、多くの上場酒造企業が減速傾向に直面。加えて消費者の世代交代が進み、85年~94年生まれの若手ビジネスパーソンが酒類消費の新しい主役となっている。
彼らは「飲みやすさ」や「健康志向」を重視し、白酒よりもビール、果実酒、カクテルを好む傾向が強い。後浪研究所の「2024年若者の飲酒レポート」によれば、これら3種の酒類はそれぞれ40%以上の支持を得ているのに対し、白酒は31.8%にとどまる。
こうした変化に対応するため、白酒メーカーは度数を下げるとともに、スタイリッシュなボトルデザイン、オンライン販売、スター起用といったマーケティング手法を導入。実際、五粮液(ごりょうえき)の29度新商品は発売初日で予約数1,000件を突破したという。
■期待される市場規模は740億元
知趣咨询の蔡学飛総経理は「低度白酒は既存の販売チャネルを補完し、家庭や友人との気軽な飲酒シーンに適している」と分析。2025年の国内低度酒市場規模は740億元(約1兆6,000億円)に達すると予測されている。
瀘州老窖によると、同社の38度製品が「国窖1573」の売上の半分を占めるなど、既に低度商品の存在感は増している。
■“降度”だけで若者は動くか
もっとも、単なるアルコール度数の引き下げだけでは若者の支持を勝ち得る保証はない。蔡氏は「低度化はあくまで第一歩。今後は軽い社交や自分へのご褒美など、多様なシーンに合う商品や体験の提供が求められる」と強調する。
これまでにも白酒企業は香水やコーヒー、チョコレートなど異業種コラボで若者を取り込もうとしたが、高度白酒特有の辛さや“次の日の負担”が敬遠されてきた。今回の低度白酒の潮流が、果たして若年層を白酒市場に呼び戻せるのか。業界全体がその成否を注視している。
(中国経済新聞)