上海の夏の蒸し暑さの中、8月21日、世界的旅行予約プラットフォーム Booking.com(ブッキング・ドットコム/缤客) が「2025年中国人海外旅行トレンドレポート」を発表した。会場には観光業界関係者やメディアが集まり、中国人旅行者の今と未来を映し出すデータに耳を傾けた。
このレポートは、単なる統計の羅列ではない。そこから浮かび上がるのは、急速に変化する中国社会の価値観とライフスタイル、そして旅行という行為が持つ新たな意味合いである。
1.近距離の安心感、広がるヨーロッパの憧れ
人気渡航先のトップは依然としてアジア近隣諸国だ。タイ(41%)、日本(36%)、韓国(23%)と、距離の近さや文化的親和性が安心感につながっている。しかしその一方で、イタリア、スペイン、オランダといったヨーロッパが急浮上。伸び率はそれぞれ二桁台に達し、憧れと好奇心を携えて長旅へ出る層が着実に増えていることを示す。

特筆すべきはオーストラリアだ。2024年6月からの1年間で中国からの訪問者は約94.8万人。前年同期比で21%の伸びを記録し、同国にとって最も勢いのある市場となった。南半球の大地に惹かれる中国人旅行者の姿が浮かぶ。
2.安全は「行くか行かないか」を決める分水嶺
海外旅行において「安全」はますます重視されるようになった。44%が渡航前に治安を確認し、政治的不安定(24%)や詐欺リスク(23%)にも敏感だ。さらに53%が「安全性は旅行先決定の最重要要因」と回答。かつては「安さ」や「有名観光地」が選択基準だった時代から、旅行者の意識は確実に変わってきている。
3.旅の原動力は「リフレッシュ」と「美食」
では、彼らは何を求めて旅に出るのか。最も多かった答えは「リラックス・休養」(57%)。都市生活の喧騒から離れ、自然や異文化の中で心身を解き放つことこそが旅の本質だと、多くの人が感じている。

さらに注目すべきは「食」だ。54%が目的地選びの決め手に「美食」を挙げ、50%は「食体験は旅に欠かせない」と答える。そして旅を終えた後、55%がSNSにグルメ体験を投稿。旅先の料理は、思い出だけでなく、デジタル空間での共感や承認欲求にもつながっている。
4.「速旅派」と「滞在派」――二極化する旅行スタイル
レポートはまた、旅行スタイルの二極化を示している。49%は1週間未満の短期旅行を選び、63%は祝日や連休に集中。限られた時間の中で、59%は「できるだけ多くの観光地を巡る」速旅派、41%は「少数を深く楽しむ」滞在派に分かれる。この傾向は、旅が「消費」から「体験」へと移行している過程を物語る。
5.サステナブルな旅への意識
84%の旅行者が「サステナブルな旅」を重視しており、特に若い世代の意識が高い。交通(72%)、宿泊(68%)、食(67%)といった旅の基本行動で、いかに環境に配慮できるかが新しい関心事となっている。
6.シニア世代、消費の主役に
中国では「銀髪経済」という言葉が注目されている。レポートによれば、71%のシニア層が1週間以上の長期旅行を希望し、33%が高級ホテルを選ぶなど、旅の質に投資する姿勢が際立つ。また、旅行情報源として「親しい人の口コミを信頼する」(53%)のも特徴だ。増え続けるシニア層が、今後の観光市場をけん引する存在になるのは間違いない。

7.旅は誰と行く?同行者で変わる旅の形
旅行の楽しみ方は、誰と一緒に行くかによっても変わる。カップル旅行では「特色ある民宿」(65%)や「現地体験」(34%)が人気。一方で子連れ旅行は「リゾートホテル」(65%)や「テーマパーク」(23%)が選ばれやすい。誰と行くか」が「どこに泊まり、何をするか」を左右しているのだ。

9.Z世代――最も自由で効率的な旅人たち
最後に触れておきたいのはZ世代だ。彼らは短期旅行(50%)、周遊型(66%)を好み、効率的に旅を楽しむ達人ともいえる。荷物預かりサービスの需要(33%)や音楽フェス目的の渡航(26%)など、趣味や関心が旅を動かす。
さらに62%が「オンライン旅行サイトのパーソナライズ機能が重要」と回答。アルゴリズムと共に旅を設計する、まさにデジタルネイティブならではのスタイルだ。
10.旅は「自分らしさ」を映す鏡へ
Booking.comの最新レポートは、中国人旅行者の変化を鮮明に映し出した。安全を求め、美食に惹かれ、サステナブルな選択に関心を寄せながらも、それぞれが「自分らしい旅」を模索している。
2025年、中国人の海外旅行は単なる観光や消費活動を超え、「自己表現」や「心の回復」という新しい意味を帯び始めているのかもしれない。
(中国経済新聞)