8月11日の早朝、東京・羽田空港から北京へ。さらに乗り継ぎ便で甘粛省の世界文化遺産の地・敦煌に到着したのは、すでに夕方6時を過ぎていた。夕食を終え、時計を見ると夜の8時。だが、西の果てに近い敦煌の空はまだ明るい。
今回の甘粛取材の第一歩は敦煌から始まる。莫高窟、鳴沙山の月牙泉、そして荒々しい地形美——雅丹世界地質公園など、この地には世界に誇れる景観がいくつもある。しかし、私は初日の夜、どうしても夜市を歩きたかった。なぜなら、夜市はその街の呼吸を感じられる場所だからだ。

敦煌の夜市は、まさに「人山人海」という言葉がぴったりだ。活気にあふれ、まるで祭りのような賑わい。通りには羊肉串の香ばしい煙が漂い、地元の青稞ビールで乾杯する人々の笑顔があちこちに見える。羊肉串は一本一本丁寧に焼き上げられ、ジューシーでスパイシーな味わいがビールと絶妙にマッチする。驚くべきは、巨大な干しブドウや果物の砂糖漬け、色とりどりの工芸品、そして西北特有のナン(馕)が所狭しと並ぶ様子だ。どれも地元の風味と文化を色濃く反映している。

この夜市は、朝3時までその熱気を保つ。経済が下向き、消費が低迷する今日において、中国の西北に位置するこの小さな都市が、こんなにも活気ある夜市を誇るとは驚きだ。それは、敦煌の観光経済が力強く息づいている証拠だろう。莫高窟や月牙泉を訪れる観光客が、夜になるとこの夜市に流れ込み、地元の人々と共に賑わいを創り出している。

私と同行者は、青稞ビールを片手に、焼き立ての羊肉串20本、毛豆やピーナッツなどの小皿を注文した。驚くことに、これだけの量でわずか210元(約4200円)。日本の感覚からすれば、信じられないほどお手頃だ。この価格で、これほど豊かな食と文化を味わえるのだから、敦煌の夜市はまさに「コスパ最強」と言えるだろう。

敦煌の夜市は、ただの市場ではない。そこには地元の人々の暮らしと観光客の好奇心が交錯し、歴史と現代が融合する独特の魅力がある。もしあなたが敦煌を訪れるなら、莫高窟や月牙泉だけでなく、ぜひこの夜市にも足を運んでほしい。そこには、ガイドブックには載っていない、敦煌の「今」を感じる瞬間が待っている。
(文:徐静波)
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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。
講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。
日本記者クラブ会員。