ここ数年、中国自動車メーカーがロシア市場で急成長を遂げ、「奇跡」とも称された時期があった。2021年には市場シェア7%に過ぎなかった中国車は、2024年には一気に60%に達し、「コストパフォーマンスの王者」としてロシアの消費者から高い支持を得てきた。
しかし、2025年に入り状況は一変する。第一四半期の対ロシア輸出台数はわずか12.3万台で、前年同期の約20万台と比べて39%もの大幅減となった。中国車のロシア市場での「黄金時代」が、急速に終焉を迎えようとしている。
この変調の背景には、ロシア政府の政策変更が大きく関与している。国家は国内産業の保護を目的に、輸入車への規制を次々と強化。2024年10月には「リサイクル利用税(車両廃棄税)」の大幅な引き上げが実施され、一部車種では70~85%の負担増となった。これにより、中国車の価格競争力は著しく低下した。
さらに、並行輸入の制限強化や関税の引き上げも重なり、従来の「安さ」を武器にしてきた戦略が通用しなくなってきている。
加えて、ロシアの老舗メーカーであるLADAなどの国内自動車ブランドが政府支援のもとで生産体制を回復。加えて、韓国・日本の自動車ブランドも市場復帰の動きを見せており、中国車の「独占的地位」は徐々に崩れつつある。
これまで、中国車は「価格対性能比の高さ」を前面に打ち出し、ロシア市場を切り開いてきた。しかし、現在の消費者はより品質や信頼性を重視する傾向にある。ロシアの一部メディアでは、中国車について「極寒地域でのシャシーの腐食」や「装備の貧弱さ」などを指摘する声があり、改善はされてきたものの「安かろう悪かろう」のイメージが根強く残っている。
ブランド認知の変化も課題の一つだ。かつては「安くて無難」な選択肢として歓迎されていた中国車だが、今や多くの消費者は、品質や信頼性に優れる欧米ブランドを再び選好する傾向を見せている。
このような状況下で、中国車メーカーは単なる「価格競争」から脱却し、「品質」「技術力」「ブランド価値」といった本質的な競争力を構築することが求められている。
これまでの中国車のロシア市場進出は、欧米ブランド撤退という特殊環境を利用した「電撃戦」による勝利だった。しかし、今後は政策変動や競争環境の複雑化、そして消費者の志向変化という要素を見据えた「持久戦」の段階に入っている。
ロシア市場における中国車の興隆と苦戦は、グローバル自動車業界の構造変化を象徴する縮図とも言える。空白を埋めるフェーズから、強者と真正面から渡り合うフェーズへ。今後、中国車がこの市場で本当の意味で「現地化」を実現できるかどうかが、海外戦略全体の成否を左右する。
(中国経済新聞)