2024年6月、中国の自動車部品メーカー・浙江孔輝汽車科技(以下、孔輝科技)の董事長である郭川氏が、サプライチェーンの健全な関係構築を呼びかける投稿をSNSで公開し、業界関係者の注目を集めた。
郭氏は、「いつの日か、自動車業界の発注側(甲方)と受注側(乙方)が共に利益を得られる関係となり、長期的な薄利や赤字が真面目に働く企業の宿命ではなくなるように」との“夢”を語り、現在の過度な価格競争が部品メーカーに過酷な圧力を与えている実態を訴えた。
孔輝科技は2018年に設立され、中国工程院院士である郭孔輝氏とその息子・郭川氏らによって創業された。主にエアサスペンションや空気バネなどの自動車用部品を手掛けており、現在では嵐図汽車、理想汽車、極氪、長安汽車など16社・40車種以上の供給先を持つ。
同社の公式ウェブサイトによると、2022年のエアサスペンション納入台数は7万台だったが、2023年には27万台、2024年には60万台超に達している。急成長を遂げる一方で、激化する価格競争の波は孔輝科技のような先端企業にも例外なく押し寄せている。
郭川氏は、自動車メーカー側に対して、単に価格の安さだけでなく、技術力や品質への評価をより重視してほしいと訴えるとともに、サプライヤーが自社のコスト削減計画を安心して共有できるような関係を築くべきだと主張した。また、納品後の迅速な検収・請求・支払い処理を求め、発票(インボイス)発行後1ヶ月以内の電信送金による決済を理想的なスキームとして提案している。
しかし、現実は逆風が吹き荒れている。2023年以降、中国自動車市場では度重なる「価格戦争」が勃発しており、自動車メーカー各社はコストダウンを理由にサプライヤーへ更なる値下げ要求を突き付けている。新規取引先の選定においても「最低価格落札」が主流であり、契約後も年次で一定の価格引き下げが義務づけられているのが一般的だ。
さらには、部品代金の支払サイト(支払までの日数)も長期化が進んでいる。多くの中国自動車メーカーでは、サプライヤーへの支払いが発票発行後120日以上、場合によっては200日を超えるケースも報告されている。
こうした状況下で、部品メーカーの利益は圧迫される一方である。孔輝科技の詳細な財務情報は非公開だが、同業の保隆科技の2024年決算によると、売上高は702,500万元(前年比+19.12%)と順調に伸びたにもかかわらず、純利益は3億300万元と前年比▲20.14%の大幅減益となった。
保隆科技はその要因として「国内市場での価格競争の激化」や「人件費の増加による収益性の悪化」を挙げており、業界全体が同様の課題に直面していることを示唆している。
このような中、郭川氏の声は、自動車業界全体に「共存共栄」のあり方を再考させる契機となる可能性がある。短期的な価格競争ではなく、長期的な技術革新と信頼に基づく取引関係の構築こそが、中国自動車産業の持続可能な発展につながるのではないだろうか。