中国市場における日本企業の投資:光と影

2025/05/27 11:00

2025年2月24日、上海市楊浦区の五角場万達広場に「鳥貴族」が静かにオープンした。日本では「全品均一価格」で知られる焼き鳥チェーンが、中国で初日から200人の行列を作り、最長で2時間半待ちの大盛況となった。

一本18元(約360円)の焼き鳥、一杯の手頃なビール──。まるで1990年代の日本にタイムスリップしたような空間が、現在の中国で多くの人々の心をつかんでいる。経済の減速、若年層の失業、不動産価格の下落。財布の紐が固くなる一方で、「低コストでの小さな幸せ」への需要が高まっている。そこに「安くて良い」という日本の長年の哲学が重なり合った。

鳥貴族だけではない。2021年に進出した「スシロー」は現在、中国国内に51店舗を展開。イタリアンファミリーレストランの「サイゼリヤ」は、2003年の中国進出以来400店舗を数える。2024年度には、全社純利益148億円のうち、83億円が中国市場からのものだった。

これらのブランドに共通するのは、「高級体験」でも「文化輸出」でもなく、飲食の本質──安く、満腹で、安心できること。鳥貴族の大倉忠司社長はこう語る。「景気が悪い時こそ、高いコストパフォーマンスが人の心を打つ」。中国での店舗目標は650店舗。日本国内の店舗数と並ぶ規模を目指している。

成功の裏に潜む「失敗」の教訓

一方で、別の道を歩んだ日本企業もある。家具小売チェーンの「ニトリ(宜得利家居)」だ。2025年5月13日、東京での決算発表会で、会長の似鳥昭雄氏が「中国での出店は失敗だった」と発言し、経済界に衝撃が走った。

ニトリの問題は、商品ではなく「スケール感」のミスマッチにあった。中国では1,500〜2,000㎡の大型店舗を一等地のショッピングモールに展開。しかしポストコロナの中国では、消費者の行動は「早く・近く・小さく」にシフト。人流があっても、それが必ずしも売上につながるとは限らない。

2024年には新たに23店舗を開店する一方で18店舗を閉鎖。2025年には24店舗を新規オープン予定だが、同時に22店舗を閉じる見込みで、実質的な純増は2店舗に留まる。今後は大型店舗から小型店舗へと方針転換し、人の集まるエリアに集中する計画だ。これは「いかに優れた商品でも、ステージを間違えれば拍手は得られない」という教訓に他ならない。

「高価格」でも勝機あり:明治牛乳の挑戦

2025年7月に「明治おいしい牛乳」が「臻好喝牛奶」として中国市場に登場する。5月の上海食品展では試飲会を実施し、価格は29.9元と市場平均の約1.5倍という強気の設定。

この戦略、一見すると時代逆行にも見えるが、明治は確信している。なぜなら、中国のSNS上で「日本旅行で飲んだ美味しい牛乳」としてすでに“ファン”を獲得しているからだ。高品質と安心感、そしてノスタルジーの感情を活用し、本地生産×高品質×高価格のモデルで勝負に出る。

一方、2024年から2025年にかけて、西安・上海・天津の蔦屋書店が相次いで閉店。「生活提案型書店」として注目された蔦屋だが、加盟店による経営形態や高コスト構造が足を引っ張った。

写真映えする空間ではあるが、家賃の高さと消費の冷え込みの中では、それだけでは収益を支えきれない。「日本的美意識」で中国市場を攻略しようとしたが、現実の「計算」と「冷静さ」に敗れたとも言える。

蔦屋書店の撤退と「美」の限界

製造業では、地政学リスクやコストの高騰により、東南アジアへの生産移転が進む一方で、中国の中間層をターゲットにした「日式消費」はいまだに強い吸引力を持つ。コンビニ、和菓子、日本酒、牛乳、ラーメン、化粧品など、安心・品質・コストパフォーマンスを武器に、「ソフトランディング」に成功しているブランドも多い。

「中国市場には万能の成功法則はない」。これは中国で長年事業を続ける日本企業の共通認識だ。市場は閉ざされてはいないが、より現実的に、より慎重に、そしてよりローカルに対応することが求められている。

変化する光と影のなか、日本企業は一つひとつの選択が生死を分ける。だが、真摯に市場と向き合い、学び続ける姿勢さえあれば、そこには確かにチャンスがある。

(中国経済新聞)