2025年の春、全世界が「米中貿易戦争」の話題で持ち切りである。トランプ大統領の高額な関税策が嵐のように吹き荒れる中、米中両国の駆け引きもどうやら新たなステップに踏み込んだようだ。関税戦争の残り火もくすぶる中、米中両国は今後の手を組むのか、それとも対立が深まるか、行方が心配されるところである。
トランプ大統領による中国への145%という関税策は、両国の関係に爆弾を落とした形になった。こうした策を講じた理由として、「不公平な貿易」でアメリカの安全が脅かされている、というのである。中国への関税攻撃は今回が初めてではないが、これだけの規模や鼻息は並々ならぬものである。トランプ大統領は「X」で、「アメリカを再び偉大にする」大切な一歩だと表明し、これに中国もただちに「最後まで付き合う」とし、策を講じて利益を守ると反応した。数年前の貿易戦争を思い出させる対決だが、今回は背景が一段と複雑で、語気も一段と荒々しいものになっている。
トランプ大統領がこの時期に改めて中国への関税戦争を仕掛けたのはなぜか。本人の視点で言うと、単なる経済政策ではなく政治的問題という。有権者を相手に「アメリカ・ファースト」という約束を果たしたことを証明する必要もある上、経済面の圧力により貿易や技術、政治面で中国に譲歩をさせたいという狙いもある。例えば、中国との貿易赤字を削減するためにハイテク品(半導体や電気自動車など)の輸出を抑え、さらには中国企業のアメリカへの投資をも見直す、としている。すなわち関税は単なる道具であって、本当の目的は米中両国の争いの構図を作り直し、世界各国に対し「アメリカ派」になるか「中国派」になるか選ばせようというものである。
中国にとっても、これに応えるのは容易でない。中国経済はこのところ、輸出依存という単純なスタイルから内需の活性化や技術的自立へと路線転換しているが、外圧も依然無視できない。トランプ大統領の関税策に対して直ちに報復関税を実施し、「外部の圧力には屈しない」と強調している。この背後には、新エネルギー車や5Gなど世界のトップを走る分野もあるという経済面の強さを自負していることが挙げられる。ただその一方、世界経済の回復が依然不透明である中、中国は高額の関税で製品輸出の費用がかさみ、中小企業やサプライチェーンの安定に支障が出るという専門家の指摘もある。
ならば、米中関係はこれで最悪の状態になってしまうのか。おそらくノーだろう。過去の例を見ると、米中間の駆け引きはおおむね「綱の引き合いで強さ比べ」というシーソーゲームである。トランプ大統領は確かに強硬ではあるが、含みを残した戦術を敷いている。例えば、「交渉」をしたいと幾度も述べており、あるいは中国が「大きく譲歩」すれば関税を軽減するとも示唆している。すなわち、中国との経済連携を完全に断ち切ることは望んでいない。アメリカ企業は依然として中国への投資や市場にかなり依存しているからだ。一方で中国も、無理に対抗すれば世界的イメージや経済的利益が失われることを知っている。よって双方のデッドラインはおそらく、激しい対立の後で何らかの「平衡状態」を探ることだろう。
ただ、その平衡状態に達するのはかなり困難だ。米中両国は今、様々な面で構造的な対立が生じている。例えば技術面で言うと、アメリカは半導体の輸出や投資を規制することで中国のハイテク分野の成長を抑えようとする一方、中国は国内製造を加速させて死活問題を脱却しようとしている。さらには台湾海峡から南シナ海、ウクライナ問題からアジア太平洋戦略といった地政学的な面で、アメリカは中国を競争相手と見なし、一方で中国は主権や多国間主義を強調している。これらが理由で、関税戦争は単なる経済問題にとどまらず、戦略的な駆け引きとなっている。
これからの米中関係の構図について考えられるのは三通りだ。一つは「冷たい平和」であり、経済や貿易でハイレベルな競争をしながらも直接の衝突は避け、交渉やルール制定で何らかの共存モデルを探る形である。二つ目は「熱い対抗」であり、トランプ大統領の強硬策がさらに熱を帯びると中国の報復も加速し、貿易、技術、あるいは軍事面で一段と激しく衝突することになる。そして三つ目は「限定的協力」であり、気候変動や地域の安定など一部の世界的問題で対立状態をひとまず棚上げし、協力を求める形である。
さて可能性が高いのはどれか。私個人は「冷たい平和」だと考える。その理由はまず、両国は経済面で依存度が高く、デカップリングにはコストがかかるからだ。また、両国が完全に分断することで世界のサプライチェーンや経済の回復に支障が出るような事態は、国際社会(EUやASEANなど)が望まない。トランプ大統領は強硬ではあるが、部下の中には「対立が過ぎると共倒れする」ということがわかっている現実主義者も随分と多い。
(文:徐静波)
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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。
講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。
日本記者クラブ会員。
(中国経済新聞)