フィリピンで7月1日に発覚した中国の医療機器メーカーの社員2人に対する誘拐殺害事件は、業界内にかなりのショックを与えた。各社が取り組んでいる東南アジアへの進出がしばらく足踏みするのではないか、とも見られている。
フィリピン国家警察のファハド報道官は現地時間7月3日、事件の真相について発表した。被害者のうち1人は中国人、もう1人は中国系アメリカ人であり、2人は6月20日にフィリピンに到着し、取引先候補の関係者と商談した。片方の親族によると、その後2人は誘拐され、犯人が身代金500万元(約1.11億円)を要求し、のちに300万元(約6655万円)を引き渡したという。しかしその後に犯人と連絡がとれなくなり、親族が警察に通報した。6月24日南カマリネス州Sagñay町のPatitinan村で2人の遺体が発見され、行方不明だった2人であることが確認された。
被害者の1人はベテランのセールスであるJimmyさんで、以前は国際医療機器大手で冠動脈ステントを扱っていたが、中国政府による購買方針を受け、自宅を担保にして心臓弁膜とIVUS(血管内超音波検査)を手掛ける代理店を立ち上げた。業界関係者によると、真面目でスキルも十分であり、多くの大手病院から高い評価を受け、事業は上向きだったという。
Jimmyさんの今回フィリピン行きは「仕掛けられた」ものと見られている。業界関係者によると、国内の激しい競争を受けて海外進出を焦る中国企業に対し、違法組織が足元をついた形で悲劇が発生したとのことである。
中国のある医療機器メーカーのCEOである王振氏によると、需要が低価格の機器から付加価値のあるものへ移っている東南アジアは今、ローカライズを求めているという。現地進出計画を立てたばかりで摸索段階にある王氏は、「東南アジアは好機もあるが市場を育てなくてはならず、チャネルはみなコネ頼みのセールスで、現地の販売店が重要であり独力での商売は難しい」と見ている。。
中国製医療機器は最近、東南アジアへの輸出が増えており、2022年は全輸出額の30%以上を占め、今後さらに増えると見られている。東南アジアは7億近い人口で、うちインドネシア、フィリピン、ベトナムの3か国で計5億人弱である。
この中でフィリピンは、2023年の医療機器の市場規模が30億ドル(約4838億円)弱であり、分類すると高価値の医療用消耗品が15%、低価値の医療用消耗品が13%、機器類が60%、IVDが12%である。フィリピンの保健省はコスパのいい品の導入を目指しており、特に心臓病関連の機器への需要が高い。
しかし、「東南アジアは管理体制やインフラ面で問題があり利益がとれない」と見るメーカーもある。インドネシアなどが中国製医療機器への関税率引き上げを予定しており、企業の利益が一段と圧迫されそうである。ある循環器関連の医療機器ベンチャーを立ち上げた人によると、東南アジアは高価な品の需要が今一つで情勢も良くないことから進出は見送ったという。
今回の誘拐殺人事件で、複数の医療機器メーカーが「東南アジアに対し恐ろしさを感じるようになった」と感じている。業界関係者は、東南アジアに進出するにしてもフィリピンは当面避けると話している。
(中国経済新聞)