ネクスペリア(安世半導体、Nexperia)の支配権をめぐる中国とオランダの対立がさらに激化している。3月3日19時02分、ネクスペリアのオランダ本社は中国地域の全従業員の業務用アカウントを一斉に無効化した。これにより、Office 365やSAPなどの主要業務システムにアクセスできなくなり、ネクスペリア中国の業務運営に大きな影響が出た。
ネクスペリア中国は3月6日、公式の微信(WeChat)アカウントを通じて顧客向けの公告を発表し、この事態を認めた。公告によると、今回の措置により、特に「顧客から提供されたウエハーが到着した後、SAP上で発注を生産工程へ移行する」プロセスが中断した。ただし、すでにSAP上で発注済みで生産工程に入っている注文については影響を受けていない。
中国地域のIT部門と業務部門は直ちに緊急対応を開始し、主要システムの復旧と生産スケジュールの正常化を優先的に進めている。公告の時点では、ほとんどの業務が回復し、基本的な生産運営は確保されているという。同社は今後の生産や納入への潜在的な影響を最小限に抑えるため、引き続き対応を進めている。
内部関係者によると、2025年10月にもネクスペリアのオランダ本社は一部の中国従業員のシステム権限を剥奪し、メールやアカウントを削除していた。その結果、一部業務は電子システムを利用できず、手作業で処理せざるを得なくなっていた。当時はウエハー供給が停止されたものの、組立・テストラインの生産システムは切断されていなかった。今回の措置はさらに踏み込んだもので、中国の全従業員のアカウントが無効化されただけでなく、パッケージングおよびテスト工程の生産スケジュールにも影響が及んでいる。
業界関係者は「生産管理システムはソフトウェア分野であり、ハードウェアに比べて国産化のハードルは相対的に低い。近年、中国の産業用ソフトウェアは着実に進歩しており、完全な代替は時間の問題で、技術的には実現可能だ」と指摘する。ネクスペリア中国にとって、当面の最善策は国産システムへの置き換えを加速させることだとみられている。
ネクスペリアはもともとオランダの半導体企業NXPセミコンダクターズの標準デバイス部門から独立した企業で、本社をオランダに置き、アジア、欧州、米国で事業を展開している。顧客にはフォルクスワーゲン、BMW、華為技術(ファーウェイ)、アップル、サムスン電子、ASUSなど、世界的な大手企業が名を連ねる。
中国の聞泰科技(ウィンテック)は2018年から2020年にかけて3度の買収を行い、総額338億元を投じて、2020年9月にネクスペリアの株式100%を取得した。聞泰の創業者である張学政氏は2019年12月に会長、2020年3月には最高経営責任者(CEO)に就任し、ネクスペリアの経営を直接統括してきた。
今回の対立の発端は、2024年12月2日に米国政府が「中国政府による敏感な半導体製造関連企業の買収を支援した」として聞泰科技をエンティティー・リストに追加したことにある。これを受けて聞泰は同月、受託製造(EMS)事業を立訊精密(ラックスシェア)に売却し、半導体事業への集中を進めた。
その後、オランダ政府は国家安全保障を理由に介入し、経済・気候政策省が大臣命令を発出。聞泰によるネクスペリアの経営支配権と議決権を凍結し、独立した管理人による暫定管理を決定した。アムステルダム企業裁判所は複数回にわたり張学政CEOの職務停止を維持する仮処分を出し、経営管理に関する調査を開始。2026年2月には調査範囲をネクスペリアの現地経営陣にも拡大したが、仮処分は依然として解除されておらず、聞泰の支配権は制限されたままとなっている。
こうした対立の激化を背景に、ネクスペリアのオランダ本社はウエハー供給の停止やシステムの切断を繰り返している。一方、ネクスペリア中国は国産ウエハー供給企業への切り替えを進め、一部では独立した運営体制を実現している。
3月7日、中国商務省の報道官は今回のアカウント一斉停止について記者の質問に答え、「中国とオランダ双方の働きかけにより、聞泰とネクスペリア・オランダは内部紛争の解決に向けた協議を進めている。しかし、オランダ側がこのタイミングで中国従業員のアカウントを無効化したことは、新たな対立を招き、協議に新たな困難と障害をもたらした」と批判した。
同報道官はまた、中国側はグローバル半導体サプライチェーンに対して責任ある姿勢を維持していると強調したうえで、「オランダ側の行為は企業の正常な運営を著しく損ない、もし再び世界的な半導体供給危機を引き起こすような事態になれば、その責任はオランダ側が負うべきだ」と指摘した。
今回の出来事は、米欧の輸出規制や地政学的圧力の下にあるクロスボーダー半導体企業の脆弱性を改めて浮き彫りにした。ネクスペリア中国は世界の自動車および産業用パワー半導体のパッケージング・テストにおける重要拠点であり、多くの自動車メーカーや家電ブランドを顧客に抱えている。本社側の措置は短期的な混乱を招いたものの、中国側の迅速な対応と国産代替の加速は、中国半導体サプライチェーンの自立化をさらに進める契機となる可能性がある。
(中国経済新聞)
