中国自動車市場の構造変化を背景に、日産自動車は中国事業の位置づけを大きく転換させつつある。従来の「海外車種を中国に導入する」一方向のモデルから、「中国で開発・生産した競争力のある製品を世界へ輸出する」双方向の戦略へシフトしている点が最大の特徴だ。この転換は、単なる輸出拡大ではなく、開発主導権の移転とグローバル供給網の再構築を伴う、本質的な戦略変更である。
国内市場では自主ブランドの急成長により、合弁ブランドの販売が圧迫されている。日産の中国新車販売は2025年に65万台と、ピーク時の2018年から約6割減少した。工場稼働率の低下を受け、余剰生産能力を海外に振り向けざるを得ない状況が生まれている。こうした圧力の中で、日産は2024年から「Glocal(グローバルとローカルの融合)」戦略を本格化させ、中国を単なる販売市場ではなく、「イノベーションと輸出のハブ」と明確に位置づけた。2025年には日産と東風汽車が共同で輸出専門会社を設立し、外資メーカーとして初の合弁輸出会社となったことも象徴的である。この動きは、中国の開発スピードとコスト競争力をグループ全体の資産として活用しようとする姿勢を示している。
具体的な成果が現れ始めているのが、中南米向け輸出だ。2026年7月、鄭州日産が上海港から中南米向けに約900~1000台のピックアップトラック「フロンティアプロ(鋒坦)」を出荷した。この車種は中国チームが主導して設計・開発・生産した初のグローバル向けモデルで、日産として初めてのプラグインハイブリッド(PHV)ピックアップでもある。燃費と実用性を両立させ、現地のピックアップ需要にマッチした点が評価されている。
中国での販売価格は18万9900元(約450万円)から。EVモードでの航続距離が約130キロメートルで、外部への給電システムなどを備える。
同車種は今後、東南アジアや中東にも輸出される計画だ。さらに、純電セダン「N7」や新エネルギーSUV「NX8」など、追加車種の輸出も予定されている。まずN7とフロンティアプロを東南アジアや中南米に展開し、NX8から輸出地域を拡大する方針である。
日産のイワン・エスピノサ社長は「技術やコスト、開発期間で中国が業界標準になりつつある。中国に学び、ノウハウを中国から輸出する」と述べ、中国からの輸出台数を現在の年間10万台規模から将来的に30万台まで段階的に増やす目標を明らかにした。この発言は、日産が中国を「学ぶ対象」として再定義したことを意味する。従来の日本中心の開発体制では対応しきれない市場のスピードに適応するため、中国現地主導の開発を本格化させたのだ。
メキシコ市場は特に重要だ。日産は同国で乗用車・小型トラックのシェア首位を誇り、世界販売の約1割を占める中核市場である。これまではガソリン車とハイブリッド車が中心だったが、手薄だったPHVの品揃えを中国製車両で強化する。BYDが2024年にPHVピックアップ「シャーク」を投入し、現地生産も視野に入れる中、日産はメキシコで一定台数以上を生産しているため、FTA非締結国に対する最大50%の追加関税を回避できる優位性を活かす方針だ。価格と性能の両面で中国勢に対抗する狙いがある。関税面の優位性を活かしつつ、中国で培ったコスト競争力を持ち込むことで、純粋な中国ブランドとの差別化を図ろうとしている。
この戦略転換の本質は、開発の主導権移行にある。従来は日本で開発した車種を世界拠点向けに改良する方式だったが、中国ではEV・PHVを中心に現地需要に即した車両を現地で企画・開発することで商品力を高めている。2025年4月発売のN7から現地主導開発に本格移行し、新エネルギー車のラインアップ拡大に注力。長期ビジョンでは2030年度の中国販売台数を2024年度比43%増の100万台とする目標を掲げている。国内販売の回復と輸出拡大を両立させることで、工場稼働率を高め、収益性を改善する狙いだ。
課題も残る。現地ディーラーとの関係構築や在庫管理、各国の規制対応は容易ではない。また、中国国内でのブランド力回復と輸出拡大を両立させる必要もある。さらに、中国勢の急速な海外進出により、価格競争が激化するリスクもある。しかし、中国の開発スピードとコスト競争力を活かし、既存の海外販売・サービス網と組み合わせる「二重の優位性」は、純粋な中国ブランドとの差別化につながる可能性が高い。ゼロからブランドを構築する必要がなく、既存のインフラを活用できる点が大きな強みだ。
日産の中国新戦略は、合弁企業が中国の変化に適応し、グローバル展開の新たなエンジンを見出そうとする動きの典型例だ。国内販売の低迷を輸出で補いつつ、中国発の技術・製品を世界に広げるーーこの転換が成功するかどうかが、日産の中長期的な成長を左右する鍵となる。中国を「学ぶ場」かつ「輸出基地」として再定義した戦略が、どこまで実を結ぶかが注目される。
