スマート工場で最先端の製造現場を体感し、宇宙関連施設で国家プロジェクトの迫力に触れ、旧工場を再活用したアートエリアで産業遺産の歴史を感じる――。かつて一般人の立ち入りが制限されていた生産現場が、今では人気の観光スポットとして注目を集めている。
中国では近年、「工業観光(インダストリアルツーリズム)」が急速に広がり、観光消費の新たなスタイルとして存在感を高めている。背景には、工業文化と観光産業の融合を後押しする政策支援の拡大がある。
中国政府は「第15次五カ年計画」で、地域の実情に応じた工業観光の発展を推進する方針を打ち出した。各地でも関連施策が進み、江蘇省では工業観光モデル企業の育成を強化。北京市は今年のメーデー連休前に「科学技術・工業ツアー」10コースを発表し、広東省も工業観光をテーマにした観光ルートを打ち出した。
観光ニーズの変化も、工業観光人気を後押ししている。若年層を中心に、画一的な観光よりも体験型・参加型の旅行への関心が高まっており、製造現場を間近で見学できる工業観光が支持を集めている。
現在、中国には国家級工業観光モデル基地が142カ所あり、業界機関は2024年から2029年にかけて、中国の工業観光市場が年平均18%の成長を続け、市場規模は3000億元(約6兆5000億円)を超えると予測している。
工業観光は、観光商品の多様化だけでなく、産業遺産の再活用や都市再生にもつながっている。
中国醋文化博物館では、伝統的な酢造り文化と現代工場が融合。見学者は歴史展示を見学した後、そのまま生産ラインも見学できる。
また、東郊記憶は、1958年創業の国営電子管工場跡地を再開発した文化施設で、現在はアートやデジタルクリエーティブ産業、商業施設が集積する人気スポットとなっており、年間来場者数は1700万人を超える。
さらに、首鋼園では、100年以上の歴史を持つ製鉄所跡地を活用し、商業、スポーツ、科学技術、文化観光を融合した複合施設へと再生。今年のメーデー連休中の来場者数は65万人を超え、前年同期比136.9%増となった。
専門家は今後の課題として、単なる工場見学にとどまらない没入型体験の充実や、地域ごとの特色を生かした差別化が必要だと指摘している。また、ブランド発信や科学教育、都市再生などと組み合わせることで、工業観光の持続的な発展につなげる必要があるとしている。
中国では現在、「中国ブランドデー」に合わせ、国家発展改革委員会と文化観光部が全国22省・自治区・直轄市を対象に、初の「ブランドを訪ねる旅」体験地30カ所を発表するなど、工業文化を観光資源として活用する動きが広がっている。
工業観光は、中国の製造業の実力や産業文化を体感できる新たな観光スタイルとして、今後さらなる発展が期待されている。
(中国経済新聞)
