新型コロナの終息から3年が経つなか、中国の医療検査企業が抱える「核酸検査費の未回収」問題が再び注目されている。広東省に拠点を置くケプ・バイオ(凱普生物)が公表した訴訟・仲裁に関する公告によると、同社および子会社が原告として提起している未収金訴訟は、主に2020〜2022年のパンデミック期に納入した試薬代金や検査サービス料の滞納に関するもので、総額は3億5,700万元(約78億円)に上る。
パンデミック当時は感染対策の需要が急増し、多くの検査企業が大規模なPCR検査業務を受託した。売上は伸びたものの、支払いサイクルは長期化し、終息後は回収が難航。経済メディアの統計によれば、2025年1〜9月期にはA株上場企業のうち少なくとも7社が純損失を計上した。
ケプ・バイオの場合、未収金の多くは地方政府機関や医療機関からの検査委託料である。公告によれば、ある訴訟では相手方が「予算不足」を理由に支払いを拒否し、裁判所が強制執行を命じた例もあった。業界関係者は「当時は『検査を先に行い、精算は後回し』が常態化し、契約書すら結ばれていない案件も少なくなかった」と証言する。

中国財政部が7月に公表した「2025年上半期の財政政策執行状況報告」では、一連の債務緩和策を継続する方針を示した。隠れ債務の置き換えを進めるとともに、新たな隠れ債務については「発覚次第厳罰」に処すと明記している。核酸検査費の未収金は地方政府の隠れ債務に含まれる可能性が高く、今後は中央政府による監督が一段と強まる見通しだ。
業界筋は「2022年末のゼロコロナ政策撤廃後、地方政府の財政はコロナ対応で疲弊し、医療機関への支払い優先度が下がった。その結果、検査企業は“最後に回される債権者”になってしまった」と指摘する。遺伝子検査大手の華大基因(BGI)は2024年の年次報告書で「コロナ関連売上の急減と回収難が業績に直撃した」と明記し、2025年も「資金回収の強化」を経営課題に掲げた。
専門家は「パンデミックによる特需は一時的なもの。検査企業は通常検査への事業転換を急ぐ必要がある」と警鐘を鳴らす。一方で、未収金の回収が進まなければ、2026年にかけて倒産リスクがさらに高まるとの見方もある。核酸検査バブルの“後遺症”は、中国の医療産業に構造改革を迫る試金石となりつつある。
(中国経済新聞)
