中国の半導体大手・士蘭微電子股份有限公司(以下、士蘭微、英語名:Silan Microelectronics)は10月19日、厦門市政府系資本と共同で、子会社「士蘭集華半導体有限公司」に総額51億元(約1,120億円)を増資し、厦門市海滄区に12インチ(300ミリ)半導体製造ラインを建設すると発表した。
プロジェクトの総投資額は200億元(約4,400億円)に達し、2期に分けて実施。完成後は月産4万5,000枚の生産能力を持つ大型拠点となる見込みだ。
■ 投資総額200億元、月産4.5万枚を目指す
公告によると、今回のプロジェクトは全額出資子会社「士蘭集華」が主体となり、総投資200億元(約4,400億円)を2期に分けて投入する。

第1期では100億元(約2,200億円)を投じ、主棟や倉庫などのインフラ整備と一部製造装置を導入し、月産2万枚の能力を確保。第2期でさらに100億元を投じ、月産能力を2万5,000枚上積みし、最終的に年間54万枚の生産体制を構築する計画だ。
■ 資金は増資+銀行融資で調達、厦門国資が主導
資金調達では、士蘭微が自社資金15億元(約330億円)を出資するほか、厦門半導体有限公司と新翼科技有限公司がそれぞれ15億元と21億元を出資。いずれも実質的な出資主体は厦門市海滄区政府傘下の国有資本である。
これにより士蘭集華の登録資本金は0.1億元から一気に51.1億元(約1,120億円)へ増加。増資後、士蘭微は持株比率29.55%の第2位株主となる。
今後、外部投資家を追加で誘致し、出資総額を60.1億元(約1,320億円)まで引き上げ、銀行融資39.9億元(約880億円)と合わせて一期分の100億元を確保する。
■ 陳向東氏、40年の芯片人生と“IDM中国モデル”の構築
士蘭微を率いる陳向東氏(浙江省出身)は、復旦大学卒業後に半導体業界に身を投じ、40年以上のキャリアを積んできた。
かつて国営企業のトップ職を辞し、范偉宏氏、鄭少波氏、江忠永氏、羅華兵氏、宋衛権氏、陳国華氏ら6人と共に起業。7人の創業メンバーが現在も経営の第一線に立ち、2024年末時点で全体の33.84%を保有している。
士蘭微は国内でも数少ない「IDM(設計・製造・封止・検査の一体型)」モデルを採用する企業。英特ルやサムスンと同様に、設計から製造まで自社完結する体制を持つことが強みだ。
■ 厦門での連続投資、SiC事業にも120億元
今回の12インチライン建設に先立ち、士蘭微は2024年5月にも厦門海滄区で8インチSiC(炭化ケイ素)パワー半導体ラインへの投資を発表している。
同プロジェクトは総投資額120億元(約2,640億円)で、年間72万枚の生産能力を計画。9月に一期ラインが初通線を果たし、2026年第1四半期に試験生産を開始予定。主要製品は電気自動車(EV)用ドライブインバーター向けのSiC-MOSFETとなる。
陳氏は8月の取材で「車載向けの市場はまだ始まったばかり」と語り、自信を示した。士蘭微関係者も「封装は成都、製造は厦門」という二拠点体制を明確にしている。

■ 世界6位の功率半導体メーカーへ
士蘭微は2024年時点で世界のパワー半導体市場におけるシェア3.3%を獲得し、ドイツ・英飛凌(Infineon)などに次ぐ世界第6位の地位に浮上。
陳氏の目標は「中国トップクラスのIDM企業」への進化だ。新ラインの稼働で、EV、データセンター向け高性能サーバー、産業ロボットなど成長分野への供給力を一段と高める狙いがある。
■ リスクも明記、「長期戦」の覚悟
士蘭微は公告で「本プロジェクトは建設期間が長く、政策や市場競争の変動リスクがある」と投資家に注意を促している。
パワー半導体市場は、長年英飛凌やSTマイクロ(意法半導体)といった欧州勢が主導してきた領域。陳向東氏率いる士蘭微が世界トップレベルと肩を並べるには、長期的な投資と技術蓄積が不可欠だ。
■ 今後のスケジュール
関係各社は「2025年第四四半期に用地取得、同年末着工、2027年第四四半期に初通線・生産開始」を目標としており、「力促早日動工(早期着工を強力に推進)」が共通の合言葉となっている。
(中国経済新聞)