中国のドローン最大手・大疆創新科技(DJI)は8月6日、新製品となるロボット掃除機「DJI ROMO」を発表した。同社が家庭用清掃ロボット市場に本格参入するのは今回が初めて。これに先立ち、7月31日には初の全天球カメラ「Osmo 360」を投入しており、同社はわずか1週間のうちに2つの新分野に連続して進出した形となる。
DJIはこれまで、民生用ドローンおよび映像機器市場において圧倒的な地位を築いてきた。ロボット掃除機と全天球カメラのプロジェクトは、それぞれ2021年および2022年に立ち上げられたもので、複数年にわたる研究開発の末に製品化に至った。

新たに発表された「DJI ROMO」は、価格が4699元(約9万6000円)からと高価格帯に位置づけられ、最上位モデルでは半透明デザインを採用。市場では“飛ぶ掃除機”のようなユニークな製品を予想する声もあったが、実際には地上走行型の従来型ロボット掃除機として登場した。
中国国内のロボット掃除機市場はすでに成熟しつつあり、主要5ブランドでシェアの93.6%を占めると言われている。だが、家電データ会社の奥維雲網(AVC)によれば、2023年時点の中国国内におけるロボット掃除機の世帯普及率は5.5%にとどまっており、今後の成長余地はなお大きいという。
DJIの担当者は「市場にはまだ多くの課題が残されており、特に自動化の精度や完全無人化の達成には技術的なブレイクスルーが必要」と述べ、同社が得意とする空間認識技術を家庭内にも応用できると強調した。

DJI ROMOの開発は、過去3度にわたる設計変更を経て完成した。開発段階では、一般的な回転ブラシの代わりにキャタピラー構造を導入し、また従来は突起していたメカ式LiDAR(レーザー測距センサー)を小型の固体型LiDARに変更。さらに、充電ステーションには透明素材を使用するなど、独自性を持たせた。
同社は掃除機にロボットアームを搭載し、ドアを開けたり家具の裏側を掃除したりする機能も試作したが、精度と実用性の面で実装は見送られた。
ドローンとの技術的親和性について、製品マネージャーは「一般的に“ドローン技術の転用は地上ロボットにとって優位性がある”と考えられがちだが、それは誤解」と述べ、「空中よりも家庭内の地面の方が障害物が多く、環境も過酷だ。掃除機にはより複雑な判断能力が求められる」と語った。
DJIはこれまでの開発実績から、センサー技術やビジュアル認識、ナビゲーションアルゴリズムなど多くの要素技術を蓄積している。今回の新分野参入は、それらの技術を新たな用途に展開する試みでもある。
家電業界では、かつて急成長したロボット掃除機市場が近年は鈍化傾向にある中、再成長の兆しも見られている。DJIの参入が、競争が激化する同分野にどのような影響を及ぼすのか、今後の動向が注目される。
(中国経済新聞)