6月14日、夜の上海はひときわ輝いていた。第27回上海国際映画祭の開幕式で、陈可辛（ピーター・チャン）監督、章子怡（チャン・ツィイー）主演の映画『醬園弄・懸案』が盛大に初上映された。この映画は、蒋峰の小説『翻案』を原作とし、民国時代の四大奇案の一つ「醬園弄殺夫事件」を題材にしたシリーズ映画の上巻である。1944年の上海、醬園弄に住む詹周氏が、長年にわたる夫の虐待に耐えかね、深夜に夫を殺害し、その遺体を解体した衝撃的な物語を描く。スクリーンに映し出されたのは、単なる犯罪劇ではなく、時代に翻弄された女性の苦悩と人間の複雑な心の叫びだった。

初上映の舞台で、章子怡は流暢な上海語で観客にこう呼びかけた。「みなさん、ぜひ『醬園弄・懸案』を観に来てください。この物語は心を揺さぶります。」彼女の声には、役への深い共感と情熱が宿っていた。章子怡が演じた詹周氏は、夫の暴力に耐え続けた女性だ。表面的には弱々しく見えるが、その内には抑えきれない怒りと絶望が渦巻いている。章子怡は、この役を演じたことで「長い間心が平静に戻れなかった」と語った。撮影中、特に重いシーンでは、感情が抑えきれず、目に涙と複雑な光が宿ったという。

章子怡と『醬園弄』の縁は、2015年に遡る。プロジェクトの存在を知った瞬間、彼女は「詹周氏を演じるのは私しかいない」と直感した。それから10年、彼女はこの役に全身全霊を捧げた。役作りのため、撮影の半年前から上海語の訓練を始め、旧市街を訪れて事件関係者の子孫に話を聞いた。彼女は、詹周氏の話し方、仕草、さらには心の傷まで、細部に至るまで忠実に再現しようと努めた。陈可辛監督は、彼女の努力をこう称賛した。「章子怡は、詹周氏を単なる役ではなく、生きている人間としてスクリーンに蘇らせた。
『醬園弄』の製作は、決して平坦な道のりではなかった。構想から撮影まで、実に5年近くを費やした。脚本は何度も改訂され、キャスティングも幾度かの変更を経た。1940年代の上海の雰囲気を再現するため、美術チームは新昌路の古い路地を忠実に再現し、衣装や小道具にもこだわり抜いた。陈可辛監督は、章子怡との10年にわたる縁を振り返り、「この映画は、彼女との信頼と情熱がなければ完成しなかった」と語った。

映画の殺青宴（打ち上げ）では、章子怡が涙ながらに監督に感謝の言葉を述べた。「あなたは私に『再生』のチャンスをくれた。」この言葉には、役者としての彼女の覚悟と、詹周氏という役を通じて得た心の変容が込められていた。章子怡にとって、詹周氏は単なる役ではなく、女性の苦しみや強さを体現する存在だった。彼女は、撮影を通じて、詹周氏の痛みと向き合い、自身の内なる感情とも対話したのだ。
上海国際映画祭の開幕式は、華やかさと感動に満ちていた。レッドカーペットには、章子怡や陈可辛監督をはじめ、映画に関わったスタッフや俳優たちが集結した。会場に集まった観客は、映画の重厚なストーリーと、章子怡の圧倒的な演技に息をのんだ。

(中国経済新聞)