中国でATMが急減少、過去5年で30万台消失

2025/05/25 15:30

中国では、ATM(現金自動預け払い機)が急速に姿を消している。
中国人民銀行(中央銀行)が2024年末に発表した「2024年決済システム運行状況」によると、全国のATM設置台数は80.27万台となり、2019年末のピーク時(109.77万台)からわずか5年間で約30万台(26.87%)も減少した。
この背景には、第三者決済サービスやスマートフォンバンキングの普及による「現金離れ」がある。QRコード決済やスマホアプリによる支払いが主流となった現代中国では、多くの人々が現金を使う機会をほとんど持たなくなっている。
ある地方銀行の関係者は「近所のATMは埃をかぶっている。現金を使う人が減ったことで、利用頻度も激減した。大きな金額を引き出す場合は、銀行窓口に行くしかない」と語る。
実際、ATMの使い勝手も低下している。四川省在住の林楽氏は「急いでお金を預けようとしたが、通勤帰りに5台もATMを回っても、すべて使えなかった」と不便さを訴える。機械には「入出金一体型」と表示されていたが、預け入れはできなかったという。
こうした現状を受けて、銀行各社もATMサービスの見直しに着手している。中でも無カードでの入出金やQRコードによる操作は急速に縮小している。
招商銀行は今年4月、「2025年4月9日をもってATMでのQRコード入金サービスを全面停止する」と発表。今後はキャッシュカードを持参し、ATMまたは店頭での取引が必要になる。また、過去1年の間に50を超える銀行が、無カード入金・出金、QRコード取引などのサービスを終了した。
このような動きは、中国が「現金社会」から「無カード社会」へと本格的に移行している証とも言える。
ただし、ATMの完全消滅という未来が確定したわけではない。
金融業界アナリストの王蓬博氏は、時代財経の取材に対し「ATMは消えない。現金利用が減っているのは事実だが、特定の利用場面では今後も必要とされる」と述べている。
中国政府は「現金の受け取り拒否は禁止」「多様な決済手段の確保」を強調しており、高齢者やデジタル弱者の存在を考慮すれば、ATMが果たす役割は今後も一定程度残ると考えられている。
また近年では、ATMそのものも進化している。顔認証や高精度の本人確認機能を備え、さらには行政サービスや生活インフラと連携する「多機能端末」としての役割も期待されている。
「これからのATMは、単なる現金の出し入れ機ではなく、地域社会と結びついたサービスプラットフォームとして再構築される可能性がある」と王氏は指摘する。
キャッシュレス化の波に押されつつも、新たな価値を模索するATM機。消えゆく存在ではなく、時代に適応しながら“進化”する存在であり続けるかもしれない。

(中国経済新聞)