高市早苗首相の「中国観」

2025/11/2 14:30

10月21日、自由民主党総裁の高市早苗が第104代首相に選出され、日本憲政史上初の女性首相となった。これは日本社会がジェンダー平等の社会に進化したことを示すと同時に、高市首相の長年の政治的追求を実現したものである。これに対し、祝意を表する。

 高市首相の政治的立場は、自民党内でも最も保守的な「タカ派」の代表と見なされている。彼女は安倍晋三の思想や見解に強く影響を受け、日本の国家安全保障、経済的自立、外交の積極性を主張している。このため、中国の世論は高市首相を「右翼政治家」とみなし、中日関係に否定的な影響をもたらすと懸念している。

 高市氏が首相に就任後、中日両国はどの分野で対立する可能性があるのか。中国社会が懸念する主な問題は以下の4つである:

 一、台湾問題

 高市首相は安倍元首相の「価値観外交」を継承し、台湾を日本のインド太平洋戦略の重要なパートナーとみなしている。安倍は「台湾有事は日本有事」と繰り返し強調し、高市もこの発言を引用し、台湾を日本の安全保障の「前哨」とみなしている。2021年、自民党の政務調査会長として、台湾の蔡英文氏とオンラインで交流し、台湾のCPTPP参加を支持すると強調した。

 2025年4月、高市氏は経済安全保障担当大臣退任後初の外遊として台湾を訪問し、台湾の頼清徳氏と台湾海峡の平和、地域情勢、経済安全保障について意見交換を行った。彼女は日台が半導体、エネルギー、AI分野で協力し、「世界に不可欠なパートナーシップ」を構築することを提案した。

 二、中日経済協力問題

 高市氏は中国を「経済的脅威」とみなし、知的財産の盗難や不公正な貿易を批判している。高市氏は「戦略的デカップリング」を主張し、日本経済の中国依存からの分離を推進している。

 経済安全保障担当大臣在任中、高市氏は『重要経済安全保障情報保護・活用法』を主導し、安全保障審査制度を導入し、対中投資の審査強化や技術流出防止、中国の経済的浸透防止策を支持した。高市氏は米国、台湾、EUと協力し、中国を排除した「民主国家サプライチェーン」を構築し、特に半導体やレアアースなどの戦略物資において中国への輸入依存を減らし、サプライチェーンの多様化を推進している。高市氏は、日本が国内技術と人材に投資し、「中国に首を絞められる」事態を回避すべきだと強調した。

 三、靖国神社参拝問題

 高市氏は日中戦争の「侵略」性を否定し、「自衛戦争」と主張し、「慰安婦」制度の強制性にも疑問を呈し、日本が「過度に自虐的な謝罪」を繰り返すべきではないと考えている。彼女は歴史的罪を過剰に強調することは日本の誇りを損なうと主張している。保守派の代表として、彼女は靖国神社を「戦没者の慰霊」の場として複数回参拝した。

 自民党新総裁就任記者会見で、首相就任後に靖国神社を参拝するかどうか問われた際、高市は「靖国神社は戦没者を慰める中核施設であり、平和を祈る神社である。どのように慰霊を行い、平和を祈るかは、適切な時期に適切な判断を行う」と述べた。

 四、在日中国人への対応問題

 高市氏は中国を「高リスク国家」とみなし、在日中国人に対する政策は「国家安全保障」と「文化保護」を中心に、具体的には背景審査の強化、機密産業へのアクセス制限、ビザや永住権の厳格化、強制的な文化的同化、及び政治活動の防止を掲げている。

 高市氏は、半導体、AI、国防などの機密産業に関わる外国人、特に中国背景を持つ人々に対し、厳格な審査を課すことを要求。『反スパイ法』の制定を求め、中国など外国籍者の国家安全保障に関わるプロジェクトへの参加を制限し、日本での中国人による土地や不動産購入の監視を強化することを求めている。

 以上の懸念から、中国政府は高市が首相に就任したことに対し、慎重な姿勢を示している。当日の中国外務省報道官は、「我々は関連選挙結果に留意している。これは日本の内政である。中日両国は隣国であり、中国の中日関係に対する基本姿勢は一貫して明確である。日本側が中国と向き合い、中日間の4つの政治文書の原則を遵守し、歴史や台湾などの重大問題に関する政治的約束を守り、両国関係の政治的基盤を維持し、中日戦略的互恵関係を全面的に推進することを望む」と述べた。

 中国は高市首相に対し祝意を示さず、「様子見」の姿勢を選んだ。

 この点から、10月末の韓国APCE首脳会議で、高市首相が習近平国家主席と初の首脳会談を行う可能性は低いとみられる。

(文:徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。