2025年、中国における人工知能(AI)技術の発展は新たな転換点を迎えている。国産大規模言語モデル「DeepSeek」の登場により、AI分野の勢力図は急速に塗り替えられつつある。
第8回「数字中国建設サミット」の期間中に行われた「院士・専門家行動」イベントにて、中国工程院の院士である呉志強氏は、AI技術の現状と今後の方向性について次のように語った。
「実は、DeepSeekのようなチームは中国に少なくとも18あります。ただ、DeepSeekが先に頭角を現しただけなのです」。呉院士はこう述べ、現在の中国においてAI技術がすでに多様で活発な研究・応用エコシステムを形成していると強調した。
一方で、「世界のAI発展に注視してきたが、DeepSeekもChatGPTも、一夜にして誕生したものではない。今のモデルは、まだ“専門水準”には至っておらず、さらなる努力が必要だ」とも語り、冷静な視点を忘れてはならないと警鐘を鳴らす。
呉氏は自身の専門分野である都市計画におけるAI応用にも触れ、「現在、私たちは『汎用型大モデル』と『精密データ型モデル』の両面からアプローチしている」と説明した。
汎用モデルは広い文脈で対応可能だが、「学習素材が粗く、計算リソースの消費が大きい」という課題がある。一方、精選された高精度データで訓練されたモデルは、必要な計算資源が5〜10%に抑えられるにもかかわらず、より正確な出力が可能になるという。この経験から、「“汎用性”と“精密性”の両輪で進むべきだ」との方針を提示した。
また、呉氏はAIが専門分野に踏み込むための条件として、「まずは専門知識を集約し、体系化して知識ベースを構築することが重要」と述べた。
「現在の大規模言語モデルは主に言語的な文脈理解と推論に長けているが、都市計画や地理情報といった分野では、『前後左右』『上下』『室内外』などの空間的概念が重要になってくる」と指摘。そのためには、単なる言語モデルでは不十分であり、「三次元時空構造」を理解・処理できる「時空大モデル(Spatio-temporal Model)」の開発が不可欠であるとした。
さらに、「AIを全面的に受け入れることは重要だが、すべてをAIに委ねるのではなく、人間の“専門知”とAIの“機械知”を有機的に融合させるべきだ」と締めくくった。
DeepSeekの登場は中国のAI開発に対する自信を高めたが、真に世界をリードする技術力を育むためには、技術の応用と深化、そして専門知識との融合が鍵を握っている。中国AIの未来は、いままさに「第二の成長曲線」に差しかかっているのかもしれない。