2025年4月、中国が米国製航空機に対して125%の関税を課したことをきっかけに、ボーイング製の737 MAX旅客機27機が中国舟山工場から米国へ返品される映像が世界中に拡散された。だが、この出来事の裏にあるのは単なる貿易摩擦ではない。むしろ、それはボーイング帝国の衰退と中国航空産業の台頭を象徴する「産業の世代交代」そのものである。
今回の関税により、ボーイング 737 MAXの到着価格は45%も高騰し、1機あたり1.2億ドルに達した。これは、同クラスのエアバスA320neo(0.9億ドル)や、中国国産のC919(0.6億ドル)を大きく上回る。価格競争力を失ったボーイングは、かつて最大の顧客であった中国市場から事実上排除された格好だ。
中国市場はボーイングにとって全世界利益の28%を占める生命線とも言える存在であったが、今回の措置により200億ドル規模の受注を失う可能性があるとされる。さらに、米シアトル工場には未納入の機体が760機以上も滞留し、保管費用は1日あたり380万ドルにのぼるという。
加えて、中国の宝钛集団が航空用合金「TA15」の供給を停止し、成都飛機集団も方向舵の納品を中止。これにより、ボーイングのCEOは米議会の公聴会で「我々はネジ一本すら自力で作れない」と苦悩を吐露した。この発言は、ボーイングがいかに中国のサプライチェーンに依存していたかを如実に物語っている。
一方、この「返品機」をめぐっては、マレーシア航空とインド航空が“買い取り”に動いた。マレーシア側は市場価格の約7割で取得し、さらに関税分をボーイング側に負担させる契約を成立させた。だが、これらの機体は中国市場向けに設計されたため、ビジネスクラスの内装などを大幅に改修する必要があり、既存の中国内装企業は既にC919の製造にシフトしている。ボーイングは、メキシコから技術者を空輸し改修作業にあたらせるなど、新たなコスト(1機あたり120万ドル)を強いられている。
インド航空はさらに強硬で、本来2027年に予定されていた納入を2025年内に前倒し要求。表向きは「ボーイングの在庫圧縮を支援する」とされているが、実態は価格を大幅に引き下げた“火事場買収”に近い。
ボーイングは今、151機の「中国仕様」機体の処分に苦しみながら、毎日巨額の損失を積み重ねている。中国にとっては、自国製航空機C919の普及を加速させ、グローバル航空産業のパワーバランスを変える絶好の機会である。
この一連の動きは、単なる「返品騒動」ではない。米中間の貿易と技術、安全保障を巡る対立の延長線上にある“航空覇権”の奪い合いであり、ボーイングにとっては「未来を失う」ほどの痛手となる可能性を孕んでいる。
(中国経済新聞)